「ワクチン接種に薬剤師の活用を」と訴えて署名活動をしている人がいたので、趣旨に賛同して署名した。change.orgのサイトでキャンペーンをやっている。もうすぐ2万5000人に届くようだ。
歯医者さんが新型コロナワクチンの打ち手に加わり、これから臨床検査技師も加わるということだが、さらに薬剤師さんが加われば、ワクチン接種のさらなるスピードアップが期待できる。
ただし、歯科医によるワクチン接種は、基本的には医師法第17条違反である(令和3年4月26日付、厚生労働省からの事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種のための 筋肉内注射の歯科医師による実施について」)。厚労省は今回、歯科医の活用を時限的、特例的な措置として認めたわけであるが、これは歯科医が診療現場で口内注射や筋肉注射を打つことがあるからだろう。
厳密に考えれば、医師法違反に該当する行為を、時限的・特例的に認める法的根拠は何なのか気になるところだ。なぜ歯科医によるワクチン接種は違法性が阻却されるのか? 厚労省の「事務連絡」を見ても、根拠となる別の法律があるとは書いていないから、結局これは医師法第17条を柔軟に解釈・運用した結果だと思われる。
ただ、これでは事実上の超法規的措置だと言えないこともない。私は歯科医のワクチン接種に賛成だけれども、何となく釈然としない気持ちも残る。
看護師によるワクチン接種も、医師法第17条の条文「医師でなければ、医業をなしてはならない」だけを見れば、違法である。ワクチン接種は同条の「医業」に相当する「医行為」であるからだ。
しかし看護師さんは、保健師助産師看護師法第37条により、主治の医師の指示があれば「医行為」を行うことができる。
保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。(保助看法第37条)
この看護師に認められた医行為が、看護師の2大業務の一つ「診療の補助」である(同法第5条)。
「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。(保助看法第5条)
皮下注射、筋肉注射、静脈注射などは、この「診療の補助」に含まれる。そして「診療の補助」は看護師単独で行うものではなく、医師の指示に基づいて行うものだ。
このように、看護師さんが医師の指示の下でワクチン接種を行う限り、その行為には法的根拠がある。
ところが薬剤師さんの場合、現状では法的根拠がない。また歯科医のように日常業務で注射を打つこともないので、現行法を柔軟に解釈・運用して時限的、特例的にワクチン接種を認めるというふうには、なかなかいかないと思う。
政府は「薬剤師を打ち手として認めるためには新たな立法措置が必要」と考えているそうだ。確かに、歯科医でさえ超法規的措置の疑いが残るのだから、打ち手の対象を薬剤師まで広げるには新規立法もしくは法改正が欠かせない。会期末が迫る今国会では、とてもそんな時間的余裕はない。上記キャンペーンの目的達成にはもう少し時間がかかるだろう。
キャンペーン主宰者の八重樫氏によると、
世界26ヶ国で平常よりワクチンを接種の担い手として活躍している、薬剤師さん31万人にも活躍してもらったほうが良いでしょう。6年制の薬学部教育で、5年前から模型を用いて筋肉注射等の練習をさせている大学もあります。すでに新型コロナワクチンの接種の研修会を薬剤師さん向けて開催した大学もあります。
とのこと。
「筋肉注射という難易度が低い手技を認めるか否かを判断するのに、人体に針を刺しているか否かで判断するのは、医療従事者のスキルで何が大切か理解していません」とも書いておられるが、これは医学と無縁の素人の私から見ると、何と評していいのかわからない。一定の実技経験があるかないかの差は、やはり大きいのではないだろうか。
感染症診療の原則ブログによれば、
文部科学省の薬学モデル・コアカリキュラムには、「皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射・点滴などの基本的な手技を説明できる」と知識に関しては明記されているものの「注射に関する手技の技能」は求められていない。
という。
薬剤師さんは筋肉注射に関する知識は既に備えている。手技の技能はまだ持っていない人が多いが、研修さえ受ければワクチンの打ち手としてふさわしいことは間違いない。政府の言う「立法措置」が早く実現し、打ち手の確保が十分になされ、高齢者に続く64歳未満の人たちへのワクチン接種が迅速に進むことを期待したい。
【参考】
・看護師のワクチン接種(注射)が認められている理由と根拠法令まとめ