吊りしのぶ

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安倍前首相は虚偽答弁をしていない、ウソつきでもない

東洋経済オンライン掲載の記事「安倍前首相、政治の表舞台復帰に秘めた『野望』 本音は再々登板ではなく、キングメーカー狙い」(6月12日)を読んだ。表舞台への復権を目指す安倍晋三前首相の動きと自民党内の権力闘争を描いたもの。政局がらみの記事にはさほど関心はないのだが、一つだけ気になる箇所があった。

www.msn.com

安倍氏への批判のもとになっていた「桜を見る会」問題では、2020年暮れに安倍氏の公設第1秘書が政治資金規正法違反(不記載)で略式起訴された。これを受けて安倍氏は国会招致に応じ、「事実に反するものがあった」と国会での虚偽答弁を認め、年明け以降も謹慎状態を余儀なくされていた。

気になったのは「国会での虚偽答弁を認め」の一節だ。安倍氏が「虚偽答弁を認めた」って本当だろうか?

私の理解では、安倍氏は「桜を見る会」問題について、それまでの国会答弁が事実と違っていたので訂正し謝罪したのであって、「虚偽答弁」を認めて謝罪したわけではない。

Yahoo!ニュースには、「安倍前首相『事実に反するものあった』 桜問題の答弁を訂正し謝罪」という記事がある。

安倍晋三前首相は25日午後、衆議院議院運営委員会に出席し、自身の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭をめぐる国会答弁の中に「事実と反するものがあった」として訂正し、謝罪した。秘書に確認して「当時私が知り得た認識で答弁した」などと釈明し、議員辞職については否定した。(2020年12月25日)

安倍氏はこの件で東京地検特捜部の捜査を受け、既に二度不起訴となっている。犯罪事実があると認定した「起訴猶予」ではなく、嫌疑不十分の「不起訴」だ。現時点で、安倍氏桜を見る会の会計処理についてウソをつき、秘書と共謀していたという証拠は何もない。証拠がないから不起訴になったわけで、今後検察審査会による強制起訴の可能性があるとしても、その結果が出るまでは、法治国家ならば当然「推定無罪の原則」をもって扱わなければならないはずだ。

それなのに、なぜ安倍氏が「虚偽答弁」を行ったと決めつけるのだろうか。国会の証人喚問で証人が「虚偽の陳述」をすると「偽証罪」に問われるが、ここで言う「虚偽の陳述」とは、弁護士法人中村国際刑事法律事務所の解説によれば、「証人の記憶に反する陳述のこと」だという。客観的事実と異なる証言をしただけでは「虚偽」とは言えないというのだ。

「虚偽の陳述」とは,証人の記憶に反する陳述のことである(大判大3.4.29)との判例があります。そのため,証人が「AさんがVを殺した」という自分の記憶に従い,「AさんがVを殺した」と証言をすれば,証人に偽証罪は成立せず,たとえ実際にはBがVを殺していても偽証罪は成立しません。

この定義を国会答弁にも当てはめてみよう。

安倍前首相が、「桜を見る会」の会計処理(安倍事務所がホテル側に参加費用の一部を補填していたこと)や政治資金収支報告書への不記載について秘書から説明を受け、真実を知っていたにもかかわらず、その記憶と異なる答弁を国会で繰り返していたのなら、確かにそれは「虚偽答弁」だろう。

だが、東京地検特捜部が明らかにした事実は、そうではなかった。安倍氏が捜査で明らかになったような報告を受けていたことは立証されなかった。秘書と共謀していたことも立証されなかった。つまり、安倍氏は事の真相を知らなかったのだ。知らないから知らないと自らの記憶に忠実に国会で答弁してきただけだ。秘書の報告が偽りだったのだから、これは仕方のないことである。総理大臣にせよ、国会議員にせよ、秘書の上げてくる報告を、いちいち裏取りする時間などあるはずがない。

結論として、安倍氏は記憶に反する答弁をしたわけではないから、これは虚偽答弁ではない。安倍氏が「桜を見る会前夜祭参加者がホテルと契約した」という自分の記憶(この記憶は秘書からそう説明を受けたことに基づく)に従い、「参加者がホテルと契約した」と答弁すれば、安倍氏は虚偽を述べたとは言えず、実際は安倍事務所がホテルと契約していても、虚偽の答弁をしたことにはならない。

いいかげん、メディアは「虚偽答弁」の不当なレッテルを貼って安倍氏を攻撃するのはやめるべきだ。世間には議員辞職を求める人もいるようだが、全く賛成できない。

安倍氏を「ウソつき」呼ばわりする人もいるが、これも事実無根だ。虚偽ではないのだから、当然ウソでもない。上記の法律事務所の解説を読めば、そのことがよくわかる。安倍氏嫌いの人たちがしきりに同氏を「ウソつき」とけなすのは、この言葉が安倍氏のイメージダウンにはもってこいの言葉だからだろう。安倍前首相の政治、経済、外交その他の分野での功罪を論じれば、否応なく「功」の方が目立ってしまう。しかし、「安倍氏はウソつきだ」と声をそろえて合唱すれば、安倍氏の功績などそもそも論じるに値しないという空気が出来上がる。安倍氏が何を言おうと、何をやろうと、「ウソつきのくせに…」のひと言で封殺できる。そこが彼らの狙い目なのだろう。

安倍氏は、特捜部の捜査がいったん終結した直後の2020年12月末、衆議院議院運営委員会に出席して説明責任を果たしている。逃げも隠れもしなかった。私は政治家として立派な態度だったと思っている。

これを今も野党の重鎮として影響力を持つ小沢一郎氏の取った態度と比べてみてほしい。小沢氏の場合、政治資金規正法違反で現役の秘書と元秘書の3人が起訴され(後に有罪確定)、小沢氏は当初、嫌疑不十分で不起訴になった(後に検察審査会によって強制起訴されたが最終的に無罪)。しかし、この事件での収支報告書への虚偽記載額は20億円にも上る。安倍氏のケースとは桁が2つも違う。関係者が3人も起訴された点でも安倍氏のケースとは比べものにならない。安倍氏同様、いやそれ以上に、小沢氏には国民への説明責任があったはずだが、小沢氏はその責任を果たしただろうか。

今は小沢氏と蜜月関係にある日本共産党は、当時こう主張していた。

www.jcp.or.jp

政治家が政治資金をめぐって疑念をもたれること自体重大であり、国会の政治倫理綱領は自ら説明責任を果たすことを求めています。小沢氏は事件発覚後、ただの一回も国会で説明していません。(2012年4月27日)

安倍氏は不起訴になった後、国会の求めに応じて即座に議院運営委員会に出席して説明した。しかし小沢氏は関係者3人が起訴された時も、自身が強制起訴された時も、そしてその後も(この記事が出る時まで)、ただの一回も国会で説明しなかったというのである。その後も小沢氏が国会招致に応じたという話は聞かない。何と不誠実な態度だろう。

当時の与党民主党は、小沢氏をかばって証人喚問の要求を拒否したし、国会で説明させることもしなかった。もちろん小沢氏は議員辞職もしていない。

東洋経済の記事とは関係ないが、この小沢氏の過去を不問に付し、有力政治家として頼っている野党に、安倍氏を攻撃する資格はないと思う。

一つ付け加えれば、安倍氏は国会で説明を終えた後、確か記者会見で、二度とこのようなことが起きないように再発防止策を取ると語っていた。その再発防止策とはどのようなものなのか。私はそれが知りたい。