吊りしのぶ

気の向くまま、思い付くままに。記憶にとどめたいoutputの場として。

小山田圭吾氏の音楽家生命を断ってよいのか。「ロッキング・オン」山崎洋一郎氏は説明責任を果たしていない

上念司氏の小山田圭吾氏の問題を取り上げた動画(7月21日公開)を見て気になったことがある。

上念氏は動画冒頭で

改めて『クイック・ジャパン』のバックナンバーというか魚拓みたいなやつを読んでみたんですけど、ひどいすね。ちょっと度を超してますわ。……ぐるぐる巻きにしてあんなことしちゃうとかさ、下ね、全部、下半身全部あれにしてあんなとこさせちゃうとか、あんなもの食わしちゃうとかね……

と語っていた。

www.youtube.com

上念氏の動画は時々拝見してその意見や主張には納得することが多かっただけに、今回の動画のコメントには少々がっかりした。

おそらく上念氏も、当初の私や多くの人同様、原典を正確に把握しないまま発言しているように思われる。

というのは、「クイック・ジャパン」vol.3所収の「村上清のいじめ紀行」を全部読んでみても、上念氏の言う「あんなもの食わしちゃうとかね」の話は出てこない。ひょっとしたら私の見落としでどこかに小さく出ているのかなと思って、二度読んでみたが見つからなかった。

もう一回読んだら見つかるかもしれないが、同誌には載っていないという前提で以下を書く。

これは「クイック・ジャパン」ではなく、「ロッキング・オン・ジャパン」94年1月号に出てくる話だ。

残念ながら同誌の現物を入手していないので(追記:後日現物を入手、確認済み)、ここは「小山田圭吾『ロッキンオン 1994年 1月号』イジメインタビュー記事文字起こし【原文】」というウェブサイトから引用させていただく。

「うん。もう人の道に反してること。だってもうほんとに全裸にしてグルグルに紐を巻いてオナニーさしてさ、ウンコを喰わしたりさ。ウンコ喰わした上にバックドロップしたりさ」

この排泄物を食べさせたというくだりは、「クイック・ジャパン」vol.3の「いじめ紀行」には出てこないのだ。

実際にこんなことをしたとすれば、生理的嫌悪感を覚えない人はいないと思うが、これは本当にあったことなのだろうか。事実あったとしても、それは本当に小山田氏がやったことなのか?

「いじめ紀行」は、ライター(村上清氏)がこの「ロッキング・オン・ジャパン」94年1月号を読んで小山田氏がいじめっ子だと知り、いじめた側といじめられた側が対談するという企画を思いつくところから始まっている(前書き部分)。

前者=いじめっ子の代表として小山田氏に取材依頼をしたわけだ。しかし、ライターはこう書いている。

そんな彼は私立小・中学時代いじめる側だったらしい。ヤバい目つきの人だなあとは思っていたが、「全裸にしてグルグル巻きにしてオナニーさせて、バックドロップしたり」とか発言してる。それも結構笑いながら。

ご覧のように、「いじめ紀行」の前書きでは、「ロッキング・オン・ジャパン」にあった「ウンコを喰わしたりさ。ウンコ喰わした上に」の箇所が省かれている。

「いじめっ子小山田圭吾」を読者に印象づける上で、これほど決定的、衝撃的な事実はないはずなのに、あえてそこを外している。なぜだろう?

「いじめ紀行」の企画に関わった北尾修一氏が事件後に公開した記事を読んだ人なら、なんとなく想像できると思う。排泄物を食べさせるいじめに小山田氏は関わっていなかった、と。

live.millionyearsbookstore.com

小山田氏は謝罪文の中でこう言っている。

「記事の内容につきましては、発売前の原稿確認ができなかったこともあり、事実と異なる内容も多く記載されております」

北尾氏が03の記事で述べているように、当時、「ロッキング・オン・ジャパン」は印刷にかける前にミュージシャンに原稿チェックをさせないことで有名な雑誌だったという。

おそらく『ロッキング・オン・ジャパン』1994年1月号の記事は、もっとずっとシンプルな話なんです。

これは推測ですが、インタビュアーへのリップサービスで、小山田さんが学生時代の出来事を大げさに話したのではないでしょうか。そしたら、それを誌面にそのまま載せられてしまったと。

現在は知りませんが、当時の『ロッキング・オン・ジャパン』がミュージシャンに原稿チェックさせなかったのは有名な話です。 

私は「ロッキング・オン・ジャパン」編集部が創作した可能性もあると思う。そういう陰湿ないじめは事実あったのだろうが、小山田氏がやったことにして活字にしてしまった可能性だ。

インタビュアーが取材時に聞いた話では、小山田氏がやったのか他のいじめっ子がやったのかはっきりしなかったので、「たぶん小山田氏がやったのだろう」と勝手に判断して活字にしてしまったのかもしれない。

あるいは、小山田氏がやったことにした方がインパクトがあると考えて勝手にそうしてしまったのかもしれない。

もちろんこれは私の臆測にすぎない。

ただ、小山田氏は「いじめ紀行」の取材を受けたとき、「ロッキング・オン・ジャパン」の排泄物を食べさせる話は、自分とは一切関係ない。あれは同誌が勝手に書いたもので、事前にチェックできなかったのでそのまま活字になってしまった、という意味のことをライターに話したのではないか。

だから、ライターは前書きで「ロッキング・オン・ジャパン」の該当箇所を引用した際、その部分だけはカットした。私はそのように考える。

「ロッキング・オン・ジャパン」で小山田氏がしたことになっているいじめは、「クイック・ジャパン」の「いじめ紀行」をちゃんと読めば、少なくともその一部は小山田氏がやったことではないとわかる。

バックドロップしたのは事実だろうが、その先の性的虐待には関与していない。全裸にもしていないし、グルグル巻きにもしていない。

これは北尾氏の指摘を待つまでもなく、元の記事をちゃんと読めばそうとしか受け取れないのだ。

やったのは、高1に上がれなくて中3に在籍した一つ年上の先輩だ。小山田氏は内心「ヤバイ」と思いながら見ていた。そして「かなりキツかったんだけど、それは」と回想している。

さて、「ロッキング・オン・ジャパン」が小山田氏に事前の原稿チェックをさせないまま活字化したことが事実だとすれば、同誌の責任は重大だ。

現「ロッキング・オン」総編集長、山崎洋一郎氏(小山田氏の記事のインタビュアー兼当時の編集長)は謝罪文を公開しているが、小山田氏の「事実と異なる内容が多い」という指摘(「ロッキング・オン」への悲痛な呼びかけ!)には何も答えていない。

rockinon.com

音楽家生命を絶たれようとしている小山田圭吾氏に対して、非情かつ冷酷な対応である。事前の原稿チェックをさせなかったのは事実なのか? 事実とすればなぜそんなやり方をしたのか?

山崎洋一郎氏はこの重大な疑問にノーコメントを貫いている。

山崎氏は、小山田氏が「記事の内容につきましては、発売前の原稿確認ができなかったこともあり、事実と異なる内容も多く記載されております」と述べたことについて、公の場で説明する責任がある。

それが当時、取材依頼に応じてくれた小山田氏への、メディアとしての礼儀であり義務だろう。

上念司氏にもお願いしたい。魚拓ページ(上念氏が読んだという魚拓ページが1次情報=原文と完全に一致しているのか疑問。順序の並べ替えや部分的な省略、何らかの編集がなかったのかどうか)を読んで決めつけるのではなく、両誌の現物と当時を知る北尾修一氏の記事「いじめ紀行を再読して考えたこと」を読んで再考していただきたい。

但し私は、小山田氏が通っていた私立小・中・高校の生徒指導やいじめ対応が全くなっておらず、同校がいじめを放置したことは大問題だという上念氏の指摘には全面的に賛成する。

※9月20日「いまだに小山田圭吾氏を叩いている人間には怒りを覚える」に続く。