河野太郎氏の総裁選立候補は規定路線のようで、しかも世論調査では一番人気らしい。しかし、常識で考えてみてほしい。河野氏は菅内閣の現職閣僚であり、しかも規制改革担当のみならず、新型コロナのワクチン担当でもある。
その菅内閣は自民総裁選の間もずっと続くのである。一部メディアで「投げ出しだ!」などとデタラメな報道を見かけるが、菅首相は総裁選に出馬しないと言っただけで、何も投げ出していない。
総裁選に出馬しても勝てる見込みがなければ、出馬しないという選択は当然ありうるわけで、菅さんはそういう選択をしただけの話だ。菅内閣自体は次期内閣が発足するまで機能し続け、仕事もちゃんとやるだろう。ご本人が「コロナ対策に専念する」とおっしゃっているのだから。
三流週刊誌ならともかく、大手紙や地方紙などのマスコミが「投げ出し」とか、よくこんな事実無根のデマを書けるものだ。
それはともかく、菅内閣のコロナ対策は、国民から低い評価しか受けていない。ワクチン接種も、私はかなり早く進んだと評価しているが、国民からはやはり低い評価しか受けていない。菅首相はその責任を一身に負って身を引く決断をしたが、この低評価を招いた一因が河野太郎氏の不手際にあったことは紛れもない事実だ。
菅首相は、コロナ収束の切り札はワクチンしかないと、対応が遅い厚生労働省の尻を叩いて全国的な接種をスタートさせ、さらに職域接種や大規模接種会場での接種にも踏み切った。
ところが、蓋をあけてみたら、肝心のワクチンが足りないことが判明。「政府が急げ、急げというから必死で準備体制を整えたのに、ワクチンが来ないとはどうなっているのか!」と自治体首長や多くの国民から非難の声が上がった。
そうなってしまったのは、実務を担う河野大臣の調整不足、ワクチン供給スケジュールに関する説明不足が原因だ。もちろん厚労省にも責任はあるが。
河野大臣は自分のミスだと陳謝したが、それで自治体首長や国民の不満が解消されたわけではない。早く打ちたいのに打てない現実は、少しも改善されなかったからだ。
こうした実務を担う人たちの不手際、ミスによる不満が全部、菅首相に向かうことになった。
百何十日間も休みを取らず、全力でコロナ対策にあたったのに、笛吹けど踊らずで、閣僚や官僚の失態で事がうまく運ばなかった。それを考えたら、失態の一翼を担った人物がここで総裁選に立候補するなんて無責任極まりない。菅首相を窮地に追い込んだ張本人が、どの面下げて新総裁になろうというのだろうか。
「自分が菅首相に迷惑をかけてしまった。申し訳ない」という気持ちがあるのなら、今回は一蓮托生で菅内閣退陣とともにしばらく謹慎すべきである。
下村博文氏のように、菅内閣を党の側から支えるべき現職の政調会長が立候補すると声を上げてみたり(後で撤回したが)、今また幹事長代行の野田聖子氏が出馬に意欲を示したりと、あまりに節操がない。良心の呵責を感じないとしたら、何という鉄面皮かと呆れるばかりだ。
世論調査で人気が高いからという理由で河野太郎氏を担ごうとする自民党若手は、あとで必ずしっぺ返しを食うだろう。
河野氏のパワハラ体質は、週刊文春が報じた通り、この男が到底、総理の器ではないことを示している。官僚に対する政治主導は大事だし、当然のことだが、官僚を怒鳴り散らして無理やり従わせようとする河野氏のやり方は、かつての田中真紀子氏を思わせるものだ。こんなパワハラ大臣が総理大臣になったら、永田町の官僚は誰もついてこない。
防衛大臣時代、イージス・アショアの配備撤回も、何の根回しもないまま勝手に決めてしまい、国の安全保障に禍根を残した。
パワハラと独断専行は河野氏の性格だから、この人が自民党の総裁になっても、党内をまとめられるとは思えない。遠からず党内で孤立し、「河野下ろし」が始まるのは目に見えている。連立を組む公明党ともうまくやっていけるとは思えない。
その時々のふわっとした空気、漠然とした人気で党のトップや選挙の「顔」を選ぶのはあまりにも愚かである。