野田聖子氏が岸田新内閣の少子化担当相になるようだ。総裁選で「こどもまんなか庁」「こどもまんなか基本法」「こどもまんなか政治」等々、まるで漫画にでも出てくるような子どもっぽい言葉を熱っぽく語っていたが、どうやら本気らしい。
本気というのは、野田聖子氏が本気なだけでなく、10月4日付けで首相となる岸田文雄氏も本気なのである。だからこそ野田氏を少子化担当相にし、こども庁も担当させたのだろう。
野田氏は、略して「こども庁」「こども基本法」を少子化対策の強化という意味合いも含めて語っていた。
以下は読売新聞オンラインからの引用(9月23日)。
――少子化対策はどう進めるか。
人口減少に対し、今の日本は何の手も打っていない。こども庁を作り、予算、人、様々な制度を凝縮させる。「子ども支援いいね」というレベルから、国家経営の大きな軸へとパラダイムシフトを狙っている。子どもを「産めよ、増やせよ」とは言わない。産みたい人に産める環境をつくるだけでも相当変わる。産めて育てられる環境を用意する。
しかし、「こども庁」や「こども基本法」に関連したウェブサイトをいくつか見る限り、出生数を増やすという意味での少子化対策は、ほとんど考慮されていないように感じる。
それよりも、「子どもの権利尊重」や「子どもを社会全体で育てる」というところに主眼があるように見える。
自民党内の推進者の一人である山田太郎議員は、そもそも青少年健全育成の概念を批判している人物だ。子どもの発達が未熟な段階では、子どもが好む漫画やアニメ、ゲームなどには一定の規制(発達段階に応じた暴力や性的描写の規制)が欠かせないが、こうした青少年健全育成に必要な施策を排除しておいて、どうやって子どもの人格や人間性を高めることができるのか。
「子どもを社会全体で育てる」は、まさに旧民主党が掲げていたような左翼リベラルが好む概念だ。言うまでもなく、子どもを育てる第一の主体は子どもを保護し、子どもに愛情を注ぐ親であり、子どもが健全に育つための最も重要な空間は家庭である。それを補うものとしての「社会」でなければならないのに、「こどもまんなか」とか、山田議員と自見はなこ議員が立ち上げた「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」にある「Children First」とかいう言葉には、親や家庭を重視、尊重する視点が全く感じられないのだ。
事実、「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」のウェブサイトによると、同勉強会の立ち上げ当初は「こども家庭庁の創設に向けて」というサブタイトルが付いていた。ところが、いつのまにか「家庭」が取れて「こども庁」になってしまった。家庭の視点は必要ないということのようだ。
これはおかしいし、非常に違和感がある。野田聖子氏がリベラル派であることは前から知られていたが、岸田氏も自民党内のハト派でリベラル寄りである。安倍政権下で重用される中で安全保障観は保守寄りにシフトしたが、やはり根本的なところでリベラルな信条の持ち主なのだろう。
こども庁・こども基本法構想が、安倍内閣当時は全く表に出てこなかったのに、菅内閣になった途端に動き出したのも、菅首相に安倍氏のような保守の哲学がなかったことが関係していると思われる。
上記「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」の立ち上げは2021年2月であり、日本財団が「子ども基本法」制定と省庁横断的な「子ども総合政策本部(=こども庁に相当)」設置を求める提言を発表したのは2020年9月20日、安倍首相が同16日に退陣した直後なのである。
日本財団の提言を読んでも、野田聖子氏が総裁選で語っていた「少子化は国家的な危機。これを打開する」とか「人口減少に手を打ち、産みたい人が産める環境を作る」といった発想、つまり、いかにして人口減少を食い止めるかという発想はほとんど読み取れない。
少子化対策は世間受けをよくするためのカモフラージュに過ぎず、実態は「子どもの権利尊重」と「子どもを社会全体で育てる」というリベラル政策を推し進めることにあるのではないだろうか。
子どもの権利尊重と言えば、何となく聞こえがいいが、そこには子どもを保護や健全育成の対象と見るのではなく、個としての権利の主体とみなし、子どもの自己決定権を限りなく拡大していこうとする意図が潜んでいる。誰も反対できない言葉を掲げながら、そこに偏った思想を注入して社会に広めようという左翼リベラル派の常套手段である。
自民党の「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」には、昨今、自民党の左翼リベラルへの傾斜(その代表格が稲田朋美氏)に多大な影響を及ぼしたとされる赤石千衣子氏も招かれている。櫻井よしこ氏は、産経新聞7月6日で次のように書いている。
赤石氏は現在法制審議会家族法制部会の委員でもある。家族崩壊を目指しているともとれる人物を家族法制部会に入れてよいのか、大いに疑うものだ。
この赤石氏を政権中枢に招き寄せたのが稲田朋美氏であろう。
そして「こども庁」「こども基本法」の危険性にかねてより警鐘を鳴らしているのが、保守派の論客でありながら、なんとフェミニストの牙城に一人乗り込み、安倍・菅政権下で政府の男女共同参画政策の司令塔たる「男女共同参画会議」議員を4期8年務めた教育学者の高橋史朗氏である。
以下の論文を読めば、高橋氏が危惧の念を抱く理由がよくわかるだろう。また、左翼リベラル勢力が「こども庁」「こども基本法」に託して何をやろうとしているか、彼らの狙いがどこにあるかも、おおよそ知ることができる。
この問題は非常に根が深く一筋縄ではいかない。なぜなら、慰安婦問題やジェンダー問題と同様に、左翼リベラルのNGO団体、それも国連で発言権を持つNGO団体が、国連の委員会を動かして対日勧告を出させ、それを錦の御旗にして日本政府に政策変更を迫るという図式が見て取れるからである。この点も高橋史朗氏が鋭く指摘している。
自民党のリベラル化は、選択的夫婦別姓推進論の高まりやLGBT理解増進法案の差別禁止法案への変質など、最近問題になったテーマにとどまるものではない。子ども政策もまた、青少年健全育成や家庭・家族の視点を見失い、権利偏重、子育ての社会化という誤った方向に向かって動き出している。
このことについて自民党の保守派並びに日本の保守勢力はどこまで気づいているだろうか?