吊りしのぶ

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「女性自身」に虚偽報道の疑惑。旧統一教会信者から「2300万円の念珠を購入」は本当なのか?

7月28日にネット公開された「女性自身」の記事。紙の雑誌では8月9日号にあたる。

jisin.jp

そこに出てくる次の文章を読んで、大きな疑問が湧いた。

「占いの勉強をしています」と訪れた統一教会の信者を家に招き入れたBさん(70代)。占い料として3000円を支払ったが、信者は「霊界で祖先が苦しんでいる」と(教会の施設である)霊場に誘導。

そこで霊能師から「このままでは夫の命はない」と脅され2300万円の「念珠」を購入。その後も次々と高額商品を購入させられた。

2300万円の念珠を買ったというのだが、いくら何でも高すぎないか。

この値段の高さから、自分はこの事例はバブル期の話だと考えた。約30年前のバブル経済の頃なら、2000万円を超える高額な念珠もありなのかもしれない、と。

だとすると、この「女性自身」の記事は、約30年前に行われていた「霊感商法」がまるで今も行われているかのように読者に思わせ、意図的に旧統一教会のイメージダウンを狙った可能性がある。

■旧統一教会は2009年のコンプライアンス宣言で「霊感商法」と訣別

既にワイドショーや新聞、雑誌でも言及されているように、旧統一教会は2009年にコンプライアンス宣言を出して「霊感商法」と訣別している。

マスコミはそれを「ウソ」と決めつけているが、宗教法人のトップが公の場に自ら出てきて明言したことをどうしてウソだと言えるのか。

教団の方針に反してスタンドプレーをする信者はいたかもしれない。しかし教団トップがはっきり公言したことだ。少なくとも教団として信者たちに「霊感商法は禁止」と指示し、そのように指導、監督してきたことは確かだろう。

「女性自身」は、そういう旧統一教会の改善姿勢を頭ごなしに否定し、「そんなのウソに決まってる」と決めつけ、彼らはまだこんなことをやっているんだと言いたいために、わざわざ昔の事例を持ち出してきたのではないだろうか。

しかし、今このブログを書きながら気になっているのは、念珠は本当に2300万円もしたのか、という疑問だ。

全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)のウェブサイトに、「商品別被害集計」というページがある。

全国弁連の言う「被害額・件数」が、正真正銘の「被害額・件数」なのか疑問があるのだが(というのは、彼らは平気で信者を被害者扱いするから、信者が納得して買った場合でも「被害」にしている可能性がある。あくまで可能性で、検証は今後の課題)、そのことはとりあえず置いておく。

ここに「数珠・念珠」という欄がある。数珠も念珠も同じもの。数珠は安くて念珠が高いということはない。

■約30年前の平均価格は20万~30万円台

被害金額を調べて見よう。

1989年 236件 6242万100円 → 1件当たり26.5万円

1990年 305件 6568万6050円 → 1件当たり21.5万円

1991年 218件 7584万850円 → 1件当たり34.8万円

1992年 286件 9636万1100円 → 1件当たり33.7万円

1993年 200件 7186万9390円 → 1件当たり35.9万円

1994年  96件 3515万8900円 → 1件当たり36.6万円

1995年  80件 2430万7100円 → 1件当たり30.4万円

ざっとこんな調子である。「1件=念珠1つ」とすると、その金額は20万~30万円台である。どう逆立ちしても、「2300万円の念珠」なんてあり得ない。

「女性自身」が言うように、被害者が本当に2300万円の念珠を買ったのなら、その被害は、この「商品別被害集計」に載っていなくてはおかしい。しかし、このケースは「商品別被害集計」のどこに載っているのか?

「女性自身」は、2300万円の「念珠」を購入、と書いており、文脈からその念珠は1個のはずだ。

しかし、実際の「商品別被害集計」から平均価格を算出してみると、桁が2つも違う。

■2000年代初期は10万~50万円

時期を変えて計算してみよう。

2000年 13件 216万5500円 → 1件当たり16.7万円

2001年 30件 790万8600円 → 1件当たり26.4万円

2002年 39件 628万8800円 → 1件当たり16.1万円

2003年 36件 1758万8300円 → 1件当たり48.9万円

2004年 31件 685万2800円 → 1件当たり22.1万円

基本的な傾向は2000年代に入っても変わらない。高くても平均50万円以下である。

直近を見ると、2020年と2021年はゼロ、1件もない。

2019年が4件で平均20万円、2018年が2件で18.5万円、2017年が6件18.2万円と件数は激減し、1件当たりの金額も下がっている。

「女性自身」は注意喚起のつもりで「2300万円の念珠」を取り上げたと言うかもしれないが、そんな被害は既に減少の一途をたどり、過去2年ではゼロ、全くなくなっているのだ。一体何のための注意喚起なのか!

そもそも統計データのある1989年以来、毎年の「数珠・念珠」の被害合計額が、記事に登場する1個の念珠の金額2300万円を超えたのは、1989~1995年と2008年(76件、合計2387万8220円)しかない。

しかし、1989~1995年は、上に書いたように少ない年でも80件、多い年は305件だ。1件当たりの平均価格は20万~30万円台なのである。

■「女性自身」の言う「2300万円の念珠」は「商品別被害集計」から算出された平均価格より桁が2つも多い

「女性自身」の記事にある「2300万円の念珠」は、「商品別被害集計」から算出される平均価格より桁が2つも多い。

本当にこんな金額で販売したのだろうか? なかった(記事はウソを書いた)と断定する気はさらさらないが、「なかったのではないか?」「ウソなのではないか?」と疑惑の目を向けることはできるだろう。

今日の見出しを「虚偽報道の疑惑」としたゆえんである。

たとえば1990年。この年の「数珠・念珠」は「305件、合計6568万6050円で1件当たり21.5万円」であるが、ここに2300万円の念珠販売が含まれていると仮定しよう。

すると、残り304件の合計額が4268万6050円となり、2300万円で売った念珠以外の平均価格は14万円となる。

あり得ない数字ではないけれど、1989~1995年の平均価格がいずれも20万円を超えていることを考えると、不自然に感じる。

1995年はどうだろう。この年は「80件、合計2430万7100円で1件当たり30.4万円」だから、もしここに2300万円の念珠が含まれていたら、残りの「数珠・念珠」は平均1万6500円で売られていたことになる。

他の年と比較して1桁安くなる。どう考えてもおかしい。

■「女性自身」が取り上げた念珠の事例は、約30年も前の出来事

いずれにせよ、全国弁連の「商品別被害集計」からうかがえる「数珠・念珠」の値段は1件当たり20万~50万円である。

1件2300万もする念珠が販売されたのは、それが事実だとしたら1989~1994年のどこか以外考えられない。

ここまでの大雑把な分析から次のことが分かる。

「女性自身」が取り上げた事例における2300万円の念珠販売は、事実あったとしても、今から約30年前の出来事だということだ。

2009年のコンプライアンス宣言のはるか昔で、日本経済がバブル景気に沸いていた頃の話。その中でもとりわけ極端な事例、念珠の平均販売価格より2桁も高く売った超特殊な事例をわざわざ引っ張り出してきて、「さあ、皆さん。こんな実例がありますから注意しましょう」と呼びかけている。

「女性自身」は、「旧統一教会って、なんて悪質なんだ」というイメージを読者に植え付けるため、最初から悪意を持って書いたとしか思えない。