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産経新聞・吉沢智美記者はなぜ印象操作、世論誘導的な記事を書くのか~10月17日消費者庁報告書をめぐって

消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」報告書が公表されたのを受けて、産経ニュースに次のような記事が載った。

www.sankei.com

報告書の内容紹介と専門家によるコメントから成り、報告書発表当日に書かれた記事だから、本格的な分析記事ではない。

  1. 消費者庁対策検討会の報告書は、旧統一教会に限らず、あらゆる悪質商法を問題にしたもの
  2. 産経記事は悪質商法全体の「相談件数」を、あたかも旧統一教会に関するもののように書いた
  3. 「相談件数は約1200~1500件程度で推移」はウソ。事実は「約20~70件台」
  4. 消費者庁の注意喚起「相談件数は事実関係が確認されたものではない」を完全無視
  5. 10月17日消費者庁報告書には、「高額献金被害」の具体的データが何もない
  6. 吉沢記者の記事にも良かったところがある

■消費者庁対策検討会の報告書は、旧統一教会に限らず、あらゆる悪質商法を問題にしたもの

しかし、看過できないのは、さして長くないこの記事の中で、明らかな印象操作、世論誘導的な書き方がなされていることだ。

トップ見出しは「被害救済、法整備は難航も 旧統一教会巡り消費者庁の検討会報告書」となっている。

この見出しから読者は、消費者庁検討会が旧統一教会に関する報告書を発表したと受け取るだろう。

しかし実際には、消費者庁検討会は「霊感商法等の悪質商法」を主題にしたのである。報告書も当然、悪質商法全体に関するものだ。「旧統一教会の霊感商法等の悪質商法」は、「悪質商法」全体の一部にすぎない。

簡単に言えば、

  • 旧統一教会とは関係のない霊感商法等の悪質商法
  • 旧統一教会が関わった霊感商法等の悪質商法

の2種類がある。

この区別を明確にすることは極めて重要だ。

ところが、産経記事はその点を明示的に書いておらず、きれいにスルーしている。

産経ニュース22年10月17日より

17日に消費者庁が公表した、霊感商法などの救済や対策をまとめた有識者検討会の報告書。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関し、「社会的に看過できない深刻な問題が指摘されている」として、宗教法人法に基づく解散命令請求も視野に調査を求めたほか、主要な論点となった霊感商法や献金行為についても、被害救済のための法整備が必要と提言した。

ただ、どう法制化していくか協議が難航することも予想され、消費者庁など関係省庁で早急な対応が求められる。(吉沢智美)

これがリード文。

■産経記事は悪質商法全体の「相談件数」を、あたかも旧統一教会に関するもののように書いた

吉沢記者が旧統一教会に焦点に当てていることは明らかだ。はっきり「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関し」と明記し、「宗教法人法に基づく解散命令請求も視野に調査を求めた」と報告書の結論の1つを強調している。

さらに、「主要な論点となった霊感商法や献金行為」の記述についても、旧統一教会が記者の念頭にあることは明らかだろう。

現時点でマスコミが大騒ぎしている「霊感商法」「献金行為」といえば、旧統一教会関連しかないからだ。これは7月以来のテレビ、新聞、雑誌等の報道の洪水からしても疑問の余地がない。

「主要な論点となった霊感商法や献金行為」が、もし旧統一教会とは無関係な団体や事業者も含むのであれば、読者が勘違いしないように、その旨を書くべきだが、吉沢記者は何も書いてない。

この見出しとリード文を読んで記事本文を読み進めた読者は、最初の小見出し「霊感商法」の箇所も、自ずと旧統一教会に関するものと思って読むに違いない。

同庁によると、霊感商法の消費生活相談に関する近年の相談件数は約1200~1500件程度で推移しているが、被害の中心が霊感商法から高額献金に移っている傾向がある。

ほとんどの人が「近年の相談件数は約1200~1500件程度で推移」を、旧統一教会に関する相談件数と思うはずだ。

この印象は、次の小見出し「寄附」の本文を読むと一層強くなる。

一方、昨今問題となっている高額献金などの寄付行為は、

霊感商法による被害相談については、精神科医など専門家と連携して専門的な相談窓口を設け、児童虐待からの保護も視野に宗教2世への支援を行う必要があるとした。

ここでも旧統一教会との関連が強く印象付けられる。

昨今問題になっている高額献金は、もちろん旧統一教会がらみだし、「宗教2世」も主な対象は旧統一教会だ。

先日、両親と教団が中止を求めるFAXを送ったとしてニュースになった宗教2世も、旧統一教会の話だった。

最近の岸田内閣の評価を問う世論調査でも、「旧統一教会への対応についてどう思いますか」という質問はあっても、「創価学会」「ものみの塔」「生長の家」「カトリック」等々の名前が出ることは全くない。

対象となるのは旧統一教会だけ。

ということで、吉沢記者が書いた産経記事を読んだ人は、「霊感商法に関する相談件数は毎年約1200~1500件もあるのか。減ったと言うが、それでも相当多いじゃないか。さらに今度は高額献金ときた。とんでもないな、旧統一教会は」と思うはずだ。

■「相談件数は約1200~1500件程度で推移」はウソ。事実は「約20~70件台」

しかし、事実はどうか。

「近年の相談件数は約1200~1500件程度で推移」とは、実は「霊感商法」全ての相談件数であって、旧統一教会にかかわる相談件数は、毎年80件以下、過去2年に限って言えば27件と33件しかない。

吉沢記者は、本当はこう書くべきだった。

同庁によると、霊感商法の消費生活相談に関する近年の相談件数は約20~70件台で推移しているが、

これが正しい事実である。

旧統一教会に関する話だと思って読んでいる読者に対しては、こう書いてこそ正しい情報提供となる。

証拠は以下の通り。

「旧統⼀教会に関する消費⽣活相談の状況について」2022年9月30日公表より

なぜ吉沢記者は、事実を正しく書かなかったのか?

なぜ旧統一教会に関する相談件数が毎年約1200~1500件もあるかのように、読者をミスリードする書き方をしたのか?

上のデータで消費者庁は、誤解を招かないようにはっきり「旧統一教会」と項目を分けて数字を記している。

(注2)と注まで付けて、旧統一教会関連だと念押ししている。

それなのに吉沢記者は、旧統一教会とは無関係な他の団体分も含む「いわゆる霊感商法(開運商法)」の数字を書き、それについて何の注釈も付けなかった。

読者がミスリードするように仕向けているとしか思えない。

「近年の相談件数約1200~1500件程度」のうち、旧統一教会がらみは5%以下しかないのに。

■消費者庁の注意喚起「相談件数は事実関係が確認されたものではない」を完全無視

消費者庁は別の資料で、国民の誤解を招かないように、もう1つ重要な注意書きを付けているが、記事はそれも完全に無視した。

おそらく記者は資料を読んでもいないのだろう。

第1回検討会で配布された資料4には、次のような記述がある。

「(相談件数を記録する)PIO-NET情報は相談者の申し出情報に基づいており、事実関係が必ずしも確認されたものではない」

証拠画像は以下の通り。これは、旧統一教会関連とそれ以外の全てを含んだ「霊感商法」全ての相談件数を書き出したもの。

対策検討会第1回配布資料4より

そこに下線部のような注意書きがある。

消費者庁のデータにおける「相談件数」は、あくまで相談者からの申し出情報を記録したもので、相談者が語った内容がどこまで真実かはまだ分かっていない、と注意喚起しているのだ。

相談者が「被害を受けた」と訴えても、相手方事業者や教団の言い分も聞いてみなければ、それが「被害」に該当するとは確定できない。

事業者側あるいは教団側は「納得できない」と答えるかもしれない。

そういう場合は、両者がきちんと話し合う必要がある。

よく話し合って、相手方が非を認めれば、その時点で「被害相談」は「被害」となるが、認めなければ後は裁判でもするしかない。判決が確定するまでは、「被害」と断定するわけにはいかないのだ。

■10月17日消費者庁報告書には、「高額献金被害」の具体的データが何もない

高額献金については、「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」が17日に発表した報告書には具体的なデータがない。9月30日公表の資料「旧統一教会に関する消費生活相談の状況について」に言及しただけだ。

資料を見ると、今年7月、8月、9月の旧統一教会関連の相談件数が激増していることが分かる。7月57件、8月98件、9月123件という具合だ。

対策検討会報告書は、これをもって「霊感商法等による消費者被害の救済」とか「寄附に関する被害の救済」と書くのだが、よく考えるとおかしい。

この数字は「霊感商法」に関する相談件数であり、寄附(献金)に関する相談は含まれていない。

資料「旧統一教会に関する消費生活相談の状況について」の中には、寄附(献金)に関することは何一つ書かれていない。

相談内容の項目は「占い・祈祷サービス・訪問販売等」「相談その他(全般)」「書籍」とあるだけ。寄附やら献金やらの記述が出てこないのだ。

対策検討会は「寄附に関する被害の救済」というが、そもそも「寄附に関する被害の実態」が、消費者庁の9月30日の公表資料にも、今回の対策検討会報告書にも、全く書かれていないのである。

実態を公にしないでおいて被害の救済も何もないだろう。

吉沢記者は、

被害の中心が霊感商法から高額献金に移っている傾向がある。

と書いているが、その根拠となるデータはどこにあるのだろう?

どこの何という資料をもとに「被害の中心が霊感商法から高額献金に移っている傾向がある」と書いたのか?

根拠があるなら、それをちゃんと書くべきだ。霊感商法については数字を出しながら、高額献金について数字を出さないなんて、おかしいではないか。

■吉沢記者の記事にも良かったところがある

ここまで産経・吉沢記者の記事を批判してきたが、記事には良かった箇所もある。それはコメントに比較的中立な識者を選んだことだ。

反統一教会の怨念に凝り固まった識者にコメントさせたのでは、目もあてられない。検討会が出した報告書を、参加メンバーのお仲間が評価すれば、お手盛りになるのは明らか。

その点、人選に気を遣った様子が見られるのは率直に評価したい。

【追記】

吉沢記者の言う「被害の中心が霊感商法から高額献金に移行」は、どうやら法務省の「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議の公開情報が根拠になっているようだ。後日、検討する。