立憲民主党などが旧統一教会の高額献金問題に対処するため、「悪質献金被害救済法案」を国会に提出。既に与野党協議の枠組みもでき、議論が始まるようだ。
- 疑似科学のマインドコントロール理論を信じ込んだ立民「被害救済法案」と消費者庁対策委報告書
- 日常生活でも普通に使われるマインドコントロール
- 「相手の心を支配して自由自在に操り、意のままにする」なんてことが、本当にできるのか?
- オセロ中島知子氏が否定した「マインドコントロール」
- マインドコントロール理論は疑似科学。法律や行政に持ち込むのは狂気の沙汰
- アメリカ心理学会等の法廷助言書、カリフォルニア州上級裁判所判決文など
■疑似科学のマインドコントロール理論を信じ込んだ立民「被害救済法案」と消費者庁対策委報告書
しかし、その報道内容を見て驚いた。こともあろうに、疑似科学であるマインドコントロール理論を採用しているではないか。疑似科学を法律に組み込もうというのだから啞然とする。
立憲民主党の法案作りは、紀藤正樹弁護士らが主導した消費者庁「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」報告書(PDF、10月17日)と歩調を合わせたものだ。
なぜなら、同検討会報告書には、随所に「マインドコントロール」という用語が使われているからだ。
報告書は、学校における消費者教育でも、「特定の集団が霊感商法を引き起こしている」ことを「その実名を出して具体的に説明」すべきとまで提言している。
「霊感商法」は、しばしば「マインドコントロール」という言葉を用いて説明される。おそらく学校教育でもマインドコントロール理論を教えるべきと考えているのだろう。
立憲民主党と維新が共同提出した「悪質献金被害救済法案」は、次のような内容を含むらしい。
年収の4分の1を超える額を差し出させる行為を「特定財産損害誘導行為」と規定する。家族が本人に代わって財産の取り戻しを主張できる「特別補助制度」も盛り込んだ。(日経WEB10月12日)
法案は多額の物品購入や献金をした本人や家族らが被害を回復できるようにする内容が柱になる。マインドコントロールされた状態にある被害者に著しい損害を与える行為については罰則を科すと定める。(日経WEB10月19日)
また、立憲民主党のホームページでは、次のように書かれている。
まずは経済的な被害の防止・救済に集中し、いわゆるマインドコントロール下におかれた人に高額な献金等を求める行為について規制し、そのような財産被害は救済できるとする議員立法が必要である一方、いわゆるマインドコントロール下に置かれた人の意思を問わず、その権利を家族の方などが直接行使するような救済方法については(私人の権利制限につながりうるため)引き続き議論が必要である、との結論に至りました。
ここに書かれた「いわゆるマインドコントロール」とは、一体何なのか?
このホームページでは、マインドコントロールについて何も説明していない。
■日常生活でも普通に使われるマインドコントロール
マインドコントロール理論は疑似科学である。科学的に確立された理論でも何でもない。漠然と「相手の心をつかむ、操作する、支配する」という意味で使われているだけで、厳密な定義は誰にもできない。
営業担当の人なら誰でもこれに類することをやっている。いかに相手の気を引くか。いかに相手の関心を自分や自社の商品に向けさせるか。その目的のために、いろんな手練手管を使ってアプローチする。
相手の誕生日をこっそり調べて、サプライズでプレゼントを渡して相手の心をつかむ、などはありふれた手法だろう。
逆に、生命保険の販売では、保険に入っていなかった人の遺族が困窮した実例などをいくつか挙げて相手を不安にさせ、「やっぱり入っておこうかしら」などと誘導するのもよくある手だ。
それ自体、別に悪いことではない。
立民や紀藤氏らは、このような日常的に見られる種類のマインドコントロールとは異なった、法規制の対象にすべきマインドコントロールがあると言いたいのだろう。
■「相手の心を支配して自由自在に操り、意のままにする」なんてことが、本当にできるのか?
自分なりに推測すると、相手の心を完全に支配して自由自在に操り、意のままにする手法、というような意味だと思われるが、本当にそんなことが可能なのか?
全国弁連の弁護士の中には、旧統一教会の信者が、あたかも全員マインドコントロールされているかのように言う人がいる。
高額献金した信者はマインドコントロールされた状態で献金させられた被害者だ、と言う人もいた。
しかし、「自発的に献金した人」と「マインドコントロールされて献金した人」を、どうやって見分ける(区別する)のか、この点について語っている人を見たことがない。活字で読んだこともない。
■オセロ中島知子氏が否定した「マインドコントロール」
オセロの中島知子氏。彼女は「女性霊能者にマインドコントロールされている」として一時、ワイドショーを賑わしたが、結局、後になって本人が全否定した。
旧統一教会の場合、元信者はよく「自分は当時、マインドコントロールされていました。今は目が覚めました」などと言うが、中島さんはそういう言い方をしていない。
彼女は「自分はマインドコントロールなんかされていない」と言ったのだ。違いは歴然としている。
同じような経験をしたのに、一方は「マインドコントロールされていた」と言い、他方は「マインドコントロールされていなかった」と言う。
この違いは、マインドコントロールという概念がいかにあやふやなものかの証拠でもある。
ところが、立民の「被害救済法案」や紀藤弁護士らの消費者庁対策検討会報告書は、この「マインドコントロール」なる概念を、さも科学的に確立された真理であるかのように装って、法律や行政の世界に持ち込もうとしているのだ。
ただ、消費者庁対策検討会報告書には「マインドコントロール」の語がはっきり書き込まれたが、立民の「被害救済法案」の条文がどうなっているかは、まだ確認していない。
マインドコントロールの語を使っているのか、それとも、別の語に置き換えているのか? これは後日、改めて検討したい。
■マインドコントロール理論は疑似科学。法律や行政に持ち込むのは狂気の沙汰
マインドコントロール理論は疑似科学だということ。これについては、教団側が用意した動画に詳しい説明がある。
教団側の説明だから信ずるに足りない、という決めつけは、それこそ非科学的な考えである。
「1+1=2」は教団信者が言っても、霊感商法対策の弁護士が言っても、共に正しい。弁護士が言えば正しいが、教団信者が言うと間違いになる、ということはない。
しかし、教団信者が「1+1=2」と言い、対策弁護士が「1+1=3」と言うことはあり得る。「ウソも100回言えば本当になる」と言ったのはナチス・ドイツの宣伝大臣ゲッベルスだそうだが、もっともらしい顔してウソをつく人はどこにでもいるものだ。
それは教団の信者ではなく、正義の仮面をかぶった弁護士の方かもしれないのだ。
いずれにせよ、「発言主体が旧統一教会関係者だからウソに決まってる」と思っている人がいたら、その人は理性を使って物事を考えられない哀れな人だ。
この動画に付いたリード文は以下の通り。
マスコミ報道やインターネットでは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は「マインド・コントロール」という心理的なテクニックを使って信者を獲得していると、まことしやかに語られています。
しかし、家庭連合の伝道方法に関する学術研究の結果は、教会への入会が強制によるものではなく、個人の自由意思による選択であったことが立証されています。
さらに、日本の法廷でもマインド・コントロール理論は否定されています。この理論は疑似科学に過ぎないことを説明します。
「日本の法廷でもマインド・コントロール理論は否定されています」とある箇所に注目したい。
これが事実ならば、立憲民主党などの法案や消費者庁検討会報告書は、疑似科学を使って司法の世界を歪めようとしていることになる。
狂気の沙汰ではないだろうか。
■アメリカ心理学会等の法廷助言書、カリフォルニア州上級裁判所判決文など
ちなみに、「マインド・コントロール理論」の疑似科学性を明らかにした本が出ている。『「マインド・コントロール理論」その虚構の正体』(増田善彦著、光言社)。
統一教会の信者の学者が書いたものだ。
アマゾンでは品切れだが、上記動画の語り部の魚谷俊輔氏が自身のウェブサイトで全文公開していた。
同書には資料として、
- カリフォルニア州最高裁判所に提出された米国心理学会(APA)等による法廷助言書(全文)
- 「マインド・コントロール理論は却下」との、カリフォルニア州上級裁判所による判決文
- カリフォルニア州最高裁判所に提出された米国キリスト教協議会等(教会・国家分離米国人連合、米国アメリカン・バプテスト教団、南部カリフォルニア教会一致協議会)による法廷助言書(全文)
- 米国における統一教会の裁判判決例
などが訳出されている。
これらは著者の主観とは無縁の客観的資料であるから、「信者の書いたものは読みたくない」と言う人は、これだけ読めばよい。