- 1,『月刊正論』2022年12月号に金沢大学教授・仲正昌樹氏が寄稿「旧統一教会が『闇の政府』という妄想」
- 2,仲正昌樹氏が受けた「まだマインド・コントロールが解けていない」という侮蔑
- 3,UPF魚谷俊輔氏による「マインドコントロール理論」の動画解説~海外編
1,『月刊正論』2022年12月号に金沢大学教授・仲正昌樹氏が寄稿「旧統一教会が『闇の政府』という妄想」
『正論』12月号に「旧統一教会が『闇の政府』という妄想」を寄稿した金沢大学教授で売れっ子哲学者の仲正昌樹氏は、1981年4月から92年10月までの11年半、旧統一教会の信者だった。
やめてから学者人生が軌道に載った頃、統一教会時代を振り返った本を刊行している。自分は読んでいないが、刊行当時、話題になったことは覚えている。
統一教会との訣別を公式に宣言した書、というような意味合いだったと思う。
2,仲正昌樹氏が受けた「まだマインド・コントロールが解けていない」という侮蔑
ところが、最近のテレビでの発言を聞いた人が「まだマインド・コントロールが解けていない」「現役信者だ」「この人、大丈夫か」などと悪口をツイートしてくるそうだ。
仲正教授が言う「マインド・コントロール」という言葉は、世間では実に安易に、根拠もなく、単なる自分の臆測を正当化する言葉として使われている。
このいい加減で、定義のあいまいな一種の俗語が、地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教裁判では、被告たちの生死を分ける決定的なポイントになったことを、どれだけの人が知っているだろうか?
オウム裁判では、「サリンを撒いた実行犯たちは、オウム真理教の教祖(松本智津夫)によってマインドコントロールされていたか?」が問題になった。
もし彼らがマインドコントロールされていたのなら、たとえ凶悪犯罪を犯したとしても、彼らに責任はなかったことになる。教祖の心理操作によって自由意志を奪われ、教祖の操り人形と化していた、ということになるからだ。
法廷は、マインドコントロール理論の有効性を認めなかった。しかし当時、マインドコントロール理論は被告たちを弁護する材料として使われ、鑑定も行われたのである。
鑑定したのは、今、旧統一教会問題を追及する1人として“活躍”する日本脱カルト協会の西田公昭氏だ。
オウム裁判が全て終結したのが2011年。西田公昭氏が専門とするマインドコントロール理論は、ついに法廷で認められることはなかった。
しかし、あれから11年。健忘症のマスコミは、仲正氏の例で分かるようにほとんど俗語と言ってもいい定義のあいまいな「マインド・コントロール」という言葉を、学問的に権威ある用語であるかのように使っている。
3,UPF魚谷俊輔氏による「マインドコントロール理論」の動画解説~海外編
安倍元首相がメッセージ動画を送ったUPF(天宙平和連合)の日本支部事務次長、魚谷俊輔氏がマインドコントロール理論について動画解説をしている。
マインドコントロール概念の基礎を知る上で有益と思い、勝手にテキスト化させてもらった。
マインドコントロールについて発言する人は、最低でもこの程度のことは知っておくべきだ。言葉の意味も知らないで、誰それを「まだマインド・コントロールが解けていない」などと揶揄するようなことは、不毛であり、また当人に対する侮辱、いや人権侵害であろう。
魚谷 今、マスコミ報道やインターネット上では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、マインドコントロールという心理的なテクニックを使って信者を獲得している、というようなことがまことしやかに語られていますが、果たしてそんなテクニックが本当に存在するのかという疑問に答えてみたいと思います。
実はこれまでマインドコントロールに言及した著作がいくつか発刊されています。
増田善彦氏が書いた『マインド・コントロール理論―その虚構の正体』(光言社)は全面的にこのテーマを扱った本です。私の本『統一教会の検証』(光言社)でもこのテーマをかなり詳細に扱っていて、『神学論争と統一原理の世界』(光言社)の中でも簡単に触れています。
さらに私は「『洗脳』『マインドコントロール』の虚構を暴く」というタイトルの個人ブログをやっていまして、この問題に関するあらゆる角度からの研究を掲載しています。
suotani.comと打ってパソコンで検索していただければ読むことができますので、もっと詳しく知りたいという方は、これらの著書やサイトをご覧ください。
今回はごく簡単に説明したいと思います。
はじめに「洗脳」と「マインドコントロール」の違いについて説明しなければなりません。
「洗脳」は英語でbrainwashingと言いますが、もともとは共産主義者による思想改造のことを指していました。
朝鮮戦争の捕虜収容所で行われた思想改造についてのCIAの報告書がきっかけとなり、ジャーナリストのエドワード・ハンターが中国共産党の洗脳テクニックについて著書で紹介して以来、有名になりました。
その後、精神科医のリフトンが、収容所から帰還したアメリカ兵に対する調査を行い、その結果を『思想改造の心理』(1961年)という著作で発表しました。
共産主義者による「洗脳」は、物理的監禁や拷問、薬物や電気ショックなどを含めた強制的な方法で人の信念体系を変えさせようとするものでした。
しかし、どの研究報告も、洗脳は「一時的な行動上の服従しかもたらさなかった」と結論しています。つまり、こうした強制的な手法を用いても、人の心を永続的に変えさせることは難しいということなのです。
アメリカで新宗教運動に反対していたいわゆる反カルト団体は、初期の頃はこうした強制的なやり方を伴う「洗脳」が、新宗教運動の勧誘においても使われていると主張していました。
しかし、実際にはそうした事実はなかったことが明らかになったので、新たな概念が必要となったのです。それがマインドコントロールです。
マインドコントロールとは、
身体的な拘束や拷問、薬物などを用いなくても、日常的な説得技術の積み重ねにより、しかも本人に自分がコントロールされていることを気付かせることなく、強力な影響力を発揮させて個人の信念を変革させてしまう、「洗脳」よりもはるかに洗練された手法を指す
とされています。
果たしてそんな魔法のようなテクニックが実際に存在するのでしょうか?
それがあるということを主張した学者の代表がマーガレット・シンガーでした。
彼女は「詐欺的で間接的な説得と支配の方法」(Deceptive and Indirect Methods of Persuasion and Control)に関する報告書を1986年に提出しています。
英語の頭文字を取ってDIMPACと呼ばれるこの報告書は、もともと1983年に米国心理学会の委嘱で研究を開始したものでした。
しかし1987年に同学会は、科学的裏付けを欠くとしてこの報告書を否定したのです。
このことからも、マインドコントロール理論が科学的にはかなりあやしいものであることが分かります。
やがてマインドコントロール理論の正当性は、アメリカの法廷で争われることになります。それが「モルコとリール対統一教会」という裁判でした。
アメリカの元統一教会員であるモルコとリールは拉致監禁による強制改宗を受けて教会を離れた後に、不当な勧誘や洗脳を理由に統一教会を相手取って民事訴訟を起こしました。
この時原告側は、シンガーの報告書を証拠として提出しました。
それに対して教会側は、米国心理学会の有志と米国キリスト教協議会がまとめた法廷助言書を提出してシンガーの報告書を批判しました。
この法廷助言書をもとに書かれたのが冒頭に紹介した増田善彦氏の著作『マインド・コントロール理論―その虚構の正体』です。なお、この裁判は和解で決着をしています。
こうした法廷助言書を書く上で根拠となったのが、それまでに積み上げられてきたマインドコントロールを否定する学問的研究です。
その代表的な作品がイギリスの宗教社会学者アイリーン・バーカー(現ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス名誉教授)が1984年に出版した『ムーニーの成り立ち―選択か洗脳か?』という本です。
このムーニーというのは、英語圏における家庭連合(旧統一教会)信者に対するニックネームのことです。ムン・ソンミョン師、ムーンに従う者たちという意味で信者をムーニーと呼んでいたのです。
実は1970年代のイギリスでも、統一教会は洗脳を行っているといううわさがありました。
そこで宗教社会学を専門とするバーカー博士が、そのうわさが真実かどうかを確かめるため、1970年代後半のイギリス統一教会を中心に「参与観察」と「インタビュー」による綿密な調査を行って出したのがこの本です。
この『ムーニーの成り立ち』は日本語訳が出版されておりません。そこで私がアイリーン・バーカー博士本人の許可を取って、全文を翻訳して個人ブログにアップしています。
89回にわたる長いシリーズになりましたが、関心のある方は是非お読みください。
それではこの『ムーニーの成り立ち』の特徴を説明したいと思います。
- まず統一教会の主催する修練会に著者自ら参加したり、統一教会のセンターに寝泊まりしながら、組織のリーダーやメンバーの生活を直接観察するなどの参与観察を行っているということです。
- 次に、現役信者だけでなく、元信者や修練会に出ても信仰を受け入れなかった者、信者の親、反対活動家の全てにインタビューを行っているということです。
- そして方法論的に完璧な計量社会学的なサンプリング分析を行っていて、非常に手堅い研究である、
ということです。
この著作の中で紹介されている実証的なデータの1つが、1979年の間にロンドン地域で行われた2日間の修練会に参加した1,017人がその後どうなったかについて、バーカー博士が追跡調査を行った結果です。
左側の表を見ていただければ分かるように、2日修に参加した時点を100%とすると、1つの修練会から次の修練会へと進んでいく過程で多くの者たちが離脱していて、最終的に信者となって残る割合は4%ほどにすぎないという結果が出たのです。
このように2日修に出た人の9割以上が拒絶することができたということが、統一教会の伝道方法は強制的でないということを示しているのです。
バーカー博士が著書の中で下した結論は以下のようなものです。
「人がムーニーになるのは強制ではなく、個人の選択によるものである。
ムーニーの説得力が効果を発揮するのは、修練会の参加者がもともと持っていた性質や前提と、修練会で提示された統一教会の信仰や実践の間に潜在的な類似性が存在するときだけだ。
統一教会の信者になった人は、教え込まれたのではなく、統一教会の教えに共鳴したのであり、もともと共鳴する性質を自身のうちに持っていたのである。」
これは明らかに洗脳やマインドコントロールを否定する結論であると言えます。
それでは、日本においては、このような実証的な研究はないのでしょうか?(国内編=後編に続く)