「マインドコントロール」の海外での評価を論じた前編に続き、後編は日本の裁判例を取り上げている。動画では9分50秒あたりから。
魚谷 それでは、日本においては、このような実証的な研究はないのでしょうか。
実はバーカー博士ほど本格的な研究ではありませんが、国士舘大学の塩谷政憲氏が、1974年の春に原理研究会が主催する3泊4日の修練会に自ら参加し、その時の体験を「原理研究会の修練会について」という論文で報告しています。
その中で彼は次のように述べています。
「決定的なことは、参加者は修練会に強制的に拉致されてきたのではなく、本人の自由意思によって参加したのであり、中途で退場することも可能だったということである。したがって、洗脳させたのではなく、自らの意思で選んだのである。人間をそうやすやすと洗脳することはできない」
塩谷氏は修練会に参加した15人のうち次の7日間の修練会への参加に応じたのは男子2人に過ぎなかったという事実に基づき、
「洗脳を思想の強制的な画一化と定義すれば、筆者が体験したところの修練会は、洗脳よりも選抜することの方に結果したといえよう」
と結論付けています。
それでは日本の法廷はこのマインドコントロールに対して、どのような判断をしているのでしょうか?
そのことが争われたのが、いわゆる「青春を返せ裁判」です。これは統一教会を脱会した元信者らが、統一教会を相手取って起こした集団訴訟です。
この裁判闘争の初期段階では、原告らは「マインドコントロール」を主張し、自分たちは正常な判断力を奪われて入信させられたと主張していました。
1998年3月26日に下された名古屋地裁判決では、統一教会を相手に元信者の女性6人が総額6,000万円余りの損害賠償を求めていましたが、稲田龍樹(たつき)裁判長は原告の請求を棄却する判決を下しました。
つまり教会側が勝訴したということです。
同裁判長は、
「原告らの主張するいわゆるマインドコントロールは、それ自体多義的であるほか、一定の行為の積み重ねにより一定の思想を植え付けるというと捉えたとしても、原告らが主張するような効果があるとは認められない」
と判示しました。
これが「青春を返せ裁判」に対する最初の判決であると同時に、法廷が「マインドコントロール理論」を否定した最初の判決でもありました。
なお、この裁判は、控訴審で原告側と教会が和解して決着しています。
このほかいくつかマインドコントロールを否定する判決が出されていますが、1つだけ紹介します。
2001年4月10日の神戸地裁判決でも統一教会側が勝訴していますが、以下のように判示されています。
「(原告らが)信仰に至る過程において、被告あるいは被告の教義の内容および入信後の信者の生活や活動についての情報が不足していたとは認められず、外部との接触も遮断されておらず、被告あるいはその信者による原告らに対する勧誘、教化行為が、詐欺的、洗脳的であるとはいえず、原告らは自己の主体的自律的判断において信仰を持つに至ったものであり、被告や信者らの勧誘、教化方法は違法とはいえない」
このように法廷でマインドコントロールを否定する判決が出たことを受けて、「青春を返せ裁判」は戦略の転換を迫られることとなります。
原告側はマインドコントロールのような根拠のない疑似科学を主張することをやめて、「正体を隠した伝道」や「不実表示」などの具体的な事実に基づいて違法性を主張するようになったのです。
その結果、札幌、東京、新潟における「青春を返せ」裁判で原告側が勝訴するようになっていきました。
これを受けて教会側は「コンプライアンス宣言」で伝道のあり方を指導し、初めから教会の名前を明かして伝道活動を行うことを徹底させることとなりました。
それでは、この動画の結論を申し上げたいと思います。
まず心理学的なテクニックを駆使して相手の心を自由に操ることのできるマインドコントロールなる技術は存在しないということです。
むしろ家庭連合(旧統一教会)の伝道方法に関する実証的な研究の結果は、教会への入会が強制によるものではなく、個人の自由意志による選択であったことを立証しています。
さらに日本の法廷でもマインドコントロール理論は否定されています。
このように非科学的な言説を、あたかも真実であるかのように吹聴する行為をマスコミは慎むべきである、ということを申し上げて、私の話を終わらせていただきます。(了)
【追記】
最後に、魚谷氏の興味深い記事を一部紹介しよう。魚谷俊輔ブログの右側カテゴリーに注目したい。特に、旧版だが紀藤正樹著『マインドコントロール』の批判的検証は必読だ。
- 紀藤正樹著『マインドコントロール』(2012年刊)の批判的検証シリーズ
- 西田公昭理論の欠陥
- 「青春を返せ」裁判と「マインドコントロール」
- 「青春を返せ」裁判と日本における強制改宗の関係
- 櫻井義秀氏と中西尋子氏の豹変
- オセロ中島知子騒動とマインドコントロール批判
- アイリーン・バーカー『ムーニーの成り立ち』日本語訳シリーズ