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反統一教会勢力によるマインドコントロール理論の法案化は1勝1敗か~「1敗」=「被害救済法案」について

立憲民主党や維新の会、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)、一部の宗教社会学者・社会心理学者、マスコミがもくろんだ「マインドコントロール理論」の法案化は1勝1敗に終わりそうな様子だ。

まずは「1敗」の方から取り上げよう。彼らにとっては痛いだろう。

1,「被害救済法案」にマインドコントロール概念を盛り込もうとした立民・維新の試み

彼らは、立憲民主党と維新の会の「被害救済法案」にマインドコントロール概念を条文化して盛り込み、かつて「青春を返せ」裁判やオウム真理教裁判で司法から「NO!」を突きつけられたことへのリベンジを果たそうとしていた。

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しかし、自民・公明両党から54項目の質問を提示され、立民・維新は答えられなかった。

そこで自民・公明は議員立法ではなく、より厳格な内閣法制局の審査のある閣法として国会に提出すると約束し、彼らの議論を引き取ったのである。

これは賢明なやり方だったと思う。

内閣法制局が、日本の法廷が認めていないマインドコントロール理論を採用するはずがないからだ。

2,政府が提出する閣法はマインドコントロール概念を盛り込まず

果たして結果はそうなった。このまま採用が見送られれば、彼らはマインドコントロールの法案化に失敗、つまり敗れたことになる。

www.sankei.com

記事には、

野党が求めているマインドコントロール下にある信者による寄付の取り消しは、マインドコントロールの定義が困難であることから、新法には盛り込まない方向だ。

とある。

3,西田公昭氏や全国弁連の主張を鵜呑みにした産経新聞の「マインドコントロール」肯定記事

しかし、実は産経新聞も、マインドコントロール論を主唱する宗教心理学者・西田公昭氏や全国弁連の紀藤正樹弁護士らに大きな影響を受けたと思われる記事をいくつも書いてきた。

特に、11月12日の社会面にデカデカと載った記事はひどかった。

産経新聞22年11月12日付けより

ネットの産経ニュースでも無料公開されている。

www.sankei.com

産経記者は西田公昭氏を全面的に信用し、

マインドコントロールに造詣が深く、消費者庁の有識者検討会で委員を務めた立正大の西田公昭教授(社会心理学)によると、対象者をマインドコントロール状態に置く「行為」がポイントになるという。

行為とは、

  • ①社会的に遮断する
  • ②恐怖感や無力感を覚えさせる
  • ③問題を唯一解決できる権威者を置き、依存させる
  • ④リアリティーを持たせる演出を実施する
  • ⑤従前の価値観を放棄させる

-の5つで、西田氏はこれらに当てはまるかをチェックすることで、「対象者がマインドコントロール下にあるかを判断できる」と説明する。

①は「修行を受けていることは周りには秘密にするように」と孤立化を促し、③は「霊能力者」や「救世主」が登場するのが典型例だという。

と書く。

4,伝統宗教を含め、宗教全般を危険視するマインドコントロール理論

これは、宗教というものを多少とも知っている者には、絶対に受け入れられない見解だ。

なぜなら「③問題を唯一解決できる権威者を置き、依存させる」は、多くの宗教に見られる普遍的な特徴なのに、それを「対象者をマインドコントロール状態に置く行為」と決めつけているからだ。

この③には、例えばイエス・キリストを唯一の救い主と仰ぐキリスト教、預言者ムハンマドが受けた神の啓示の書『コーラン』に絶対的な信頼を置くイスラム教、異端とされるモルモン教、中東発祥のバハイ教、宗祖や中興の祖(法然、親鸞、蓮如、日蓮、道元ら)を絶対視する日本の各伝統仏教、新興宗教(天理教、金光教、黒住教、立正佼成会、創価学会など)等々が、全部当てはまる。

当たり前のことだが、宗教の特徴の1つは依存性にある。それを「悪」とみなせば、宗教は成り立たない。西田氏が宗教というものを全く分かっていない証拠だ。

教祖もしくは教祖の教えに依存し、自分の常識では理解できないことであっても、教祖を信じて自己を委ねてみる。

自我を殺し、己への執着をなくし、自分自身を教祖や教祖の言葉、教義などに全面的に委ね、修行や実践に努めることによって、新しい自分を見出したり、抱えていた問題の解決に光を見出す。

これが「宗教体験」とか「回心」、あるいは「悟り」と呼ばれるものである。

それを「依存=悪」として否定したら宗教は成り立たないのである。

「⑤従前の価値観を放棄させる」もふざけている。

かつて暴力団員だった者がキリスト教に触れて過去の過ちを悔い改め、クリスチャンとして全く新しい人生を歩むようになり、布教やボランティア活動にいそしむようになった。

こう書けば、どこかで聞いたような話だなと思う人が多いだろう。こんな話はザラにある。

この人は牧師さんの説得やキリスト教の教えにより、暴力団員だったときの「従前の価値観を放棄させられた」のだが、だとしたら、こんな喜ばしい話はないだろう。

ところが西田理論によると、この人はキリスト教会で「マインドコントロール」を受けた結果、暴力団員からクリスチャンに変身したことになる。

何だかおかしくないか?

マインドコントロール理論は、彼らがカルトと呼ぶ特殊な宗教だけをターゲットにしたものではない。この理論が恐ろしいのは、いわゆるカルトにとどまらず、宗教全般を否定するところにある。

そこまで言うと宗教界の反発が起きるので、はっきりとそう口にしないだけのこと。

だから、西田公昭氏も「5つの手口」の中に、さりげなく「救世主」という言葉を入れてはいるが、宗教そのものに問題があるとは、この記事でも言っていない。

5,「宗教2世」という言葉が暗示する宗教全般への警戒感

しかし、既に「宗教2世」という言葉が日本社会に広まったことを考えてみたらいい。宗教2世とは、多くの既に社会に定着している宗教の2世信者にも当てはまる言葉だ。

伝統仏教の場合は、代々世襲で住職になる人が多いので「宗教3世、4世、5世…」だが、お寺に生まれた長男は生まれながらに住職を継ぐ運命を背負わされる。

キリスト教はもっと顕著で、親がクリスチャンでなくても、聖書やその手の本を読んで教会に通うようになり、信者同士で結婚するケースはかなりあるはずだ。そうすると、そのクリスチャン家庭の子どもは「宗教2世」である。

カトリック信者夫婦(1世)の場合は幼児洗礼を授けるから、生まれたときから「宗教2世」になる。

「宗教2世を救え」という声が広がれば、彼らもその対象になるだろう。

「宗教2世に教義や信仰を押し付けるのはけしからん」ということで、あらゆる宗教が批判にさらされる可能性がある。

マインドコントロール理論が安易に信じられる社会では、いつの間にか宗教全般が危険視され、宗教団体は不合理なものを信じる忌むべき存在として、規制の網をかけるターゲットにされていくのだ。

6,マインドコントロール理論には、実証的で科学的なデータが何もない

西田氏は、司法の世界でマインドコントロール理論への理解は深まってきたと言う。

例えば、福岡県で令和2年に5歳の男児が餓死した事件の裁判では、西田氏が母親の精神鑑定を実施し、事件当時、「ママ友」の女に精神的に支配された状態にあったと結論づけ、今年9月の福岡地裁判決は女が母親の生活全般を支配し事件を主導したと認定した。

マインドコントロールという表現こそ用いなかったものの、西田氏は「マインドコントロールの概念を採用していることは明らか」と説明。「このような判例は積み重なっている。適切な精神鑑定や状況証拠により、判断は十分に可能」とする。

 しかし、この「ママ友」裁判の福岡地裁判決が出た時、NHKだったか報道ステーションだったか忘れたが、ニュースは「このような判決は極めて珍しい」と伝えていた。

西田氏の「このような判例は積み重なっている」は我田引水で眉唾だ。それに、まだ地裁の段階だから高裁でひっくり返る可能性がある。

産経記者が無批判に西田氏の説明を垂れ流すだけで、記者としてなんら分析力も批判精神も発揮していないのが可笑しい。

新聞記者って、取材対象の言い分を鵜呑みにして記事を書くのが仕事なんだろうか?

全国霊感商法対策弁護士連絡会などによると、旧統一教会の被害では、家庭崩壊するほどの高額献金を強いられたケースが確認された。多くはマインドコントロール下にあったとみられ、信者自身から外部に相談が寄せられることはまれだ。

ちょっとでも批判精神があれば、「多くはマインドコントロール下にあったとみられ」と書く前に、「そのように判断する根拠はなんだろう?」「家庭崩壊するほど高額献金を強いられた人たちを専門家は何人鑑定したんだろう?」などと考えるはずだが、産経記者がそのように考えた形跡はない。

「家庭崩壊するほど高額献金を強いられた人たち」が日本社会で顕在化したのは、安倍元首相テロが起きた後のことだ。あれからまだ4カ月しか経っていない。

全国弁連はこの間に「家庭崩壊するほど高額献金を強いられた人たち」の何人に接触し、西田氏らの専門家に依頼して、科学的な調査もしくは鑑定を行ったんだろう?

普通ならこんな疑問が頭に浮かぶはずだ。

そして、こういった調査や鑑定が、多人数の被験者の協力を得て、たったの3、4カ月でできるはずがないと気付くだろう。

つまり、「多くはマインドコントロール下にあったとみられ」は、彼らの一方的な決めつけ、独断的な臆測にすぎないのである。

少なくとも自分が知る限り、マインドコントロール理論には実証的で科学的なデータがない。西田氏の「5つの行為」にしてもただの仮説にすぎない。

というわけで、西田氏や全国弁連は「産経記者はちょろい」と思っているのではないか?