吊りしのぶ

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2002年9月訪朝前、小泉首相は「統一教会の大幹部」と(官邸で?)会っていた~AERA07年11月19日号

朝日新聞デジタルの10月15日付けによると、自民党神奈川県連は、

来春の統一地方選の公認・推薦候補者に対し、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と関係を持たないよう誓約書をとる方針を決めた。署名できない場合は公認・推薦の取り消しを含めて検討をする。

と厳しい方針を打ち出した。

www.asahi.com

岸田首相が自民党総裁として「旧統一教会及び関連団体との関係を断つ」と決めたことに対応したもので、地方には地方の事情があると対応に苦慮する支部が多いのに、自民・神奈川県連はいち早く厳しい方針を表明し、注目を浴びた。

神奈川県連の会長は小泉進次郎氏。言わずと知れた小泉純一郎元首相の次男である。

小泉県連会長の決定は単純明快だ。しかし、政治とは、そんなに単純で明快なものだろうか?

政治を行う上では、黒でない限りは、たとえグレーな存在であってもつながりを持っておくことは大切なはずだ。そのつながりがどこで生きてくるか分からないからだ。

いろいろな人や組織とのお付き合いを大事にしてこそ、必要な情報、重要な情報も入ってくるし、また物事を進める上でそうした人脈や関係がカギを握ることもある。

1,統一教会および関連団体とも、分け隔てなく付き合っていた自民党

かつての自民党にとって、統一教会とその関連団体はそんな存在だったと思われる。

いわゆる55年体制下では社会党、共産党の力が強く、何をやっても彼ら左翼勢力の非難にさらされた自民党は、反共産主義の統一教会をうまく利用した。

ところが、冷戦が終わった1991年、統一教会の元締めの文教祖は突如、北朝鮮の金日成と握手し、南北統一を唱え始めた。これに違和感を覚えた人は多かったはずだ。

「反共、勝共」を訴えながら北朝鮮に進出し、北の党幹部ともパイプを持つ存在。それが統一教会だ。

しかし、北朝鮮は1987年にソウル五輪つぶしを狙って大韓航空機爆破事件を起こした国であり、1990年代には日本人を拉致した疑いが持たれ、核・ミサイル開発を始めたことが伝えられた。

そんな国と親密な関係にある同教団とその関連団体は、主義主張からいえば「反共、勝共」の保守系団体ではあっても、北のような怪しげな国とも交流のある、まさにグレーな存在だったと言える。

それでもかつての自民党は、これを「白ではないから」と言って切り捨てるようなことはしなかった。利用できるところは利用しようとした。

利用といえば選挙での応援依頼ということになるのだろうが、それだけではない。

AERA2007年11月19日号の「統一教会のホワイトハウス~ソウルから5時間の山中に建設、文鮮明氏の野望」という記事(3ページある)には、こんな記述がでてくる。

AERA2007年11月19日号目次と本文より

関係者によると、02年9月の日朝首脳会談を前に小泉純一郎首相(当時)は日本統一教会の大幹部を呼び北朝鮮の話を聞いた。

現職の総理大臣として、これから行く北朝鮮の話を聞こうというのだから、「日本統一教会の大幹部」と会った場所は首相官邸ではないだろうか。

断定はできないけれど、公の目的があるのだから、官邸に招いて話を聞いたとしても少しも不思議ではない。

官邸に行く人は常に入口で記者がチェックしているが、数人の同行者に交じって入れば、記者と顔見知りでもない限り、分からないらしい。

2,小泉純一郎首相(当時)は「日本統一教会の大幹部」とどんな会話を交わしたのか

小泉純一郎首相は、拉致被害者について何か情報を持っていないか、と尋ねたことも考えられる。

小泉首相がそこで「日本統一教会の大幹部」とどんな会話を交わし、結果として得るものがあったのかどうか。AERAはそこまで書いてないからわからない。

なぜAERAの記者は、「関係者」の話が事実かどうか小泉首相に確認しなかったのだろう? 小泉首相に取材して、どんなやりとりだったか話を聞けばよかったのに。

2007年11月はもう総理大臣のイスを降りた後だ。取材すれば、何か話してくれたかもしれない。

「日本統一教会の大幹部」と会ってみようと思った理由は何ですか? 成果はあったのか? 霊感商法についてはどう考えているのか? 当時、政権内で統一教会はどんな位置付けだったのか?

等々、聞くことはたくさんあったのじゃありませんか、AERAさん。

3,統一教会人脈は自民党政治にプラスに働いたはず

小泉首相の着眼点は間違っていなかったと思う。なぜなら、統一教会系の「世界日報」や米紙「ワシントン・タイムズ」は、たびたびスクープや注目記事を発表してきたからだ。

これらの情報は政治的にも重要な意味を持ったはずだ。

以下に、世界日報(日本)のこれまでの主なスクープがリストアップされている。

www.worldtimes.co.jp

最近では、今年6月27日付けで、脱北した北朝鮮工作機関「偵察総局」の元幹部、キム・グクソン氏に取材し、

  • 「被害者とその家族は少なくとも2013年までは平壌市内に居住していた」
  • 「横田めぐみさんを含む『8人死亡』という北の発表は『全てうそだ』」

という重大証言を報じている。

このビッグニュースは拉致被害者家族会に驚きをもって伝えられ、西岡力氏や櫻井よしこ氏、古森義久氏らが取り上げて広く知られるようになった。

jbpress.ismedia.jp

また米紙「ワシントン・タイムズ」も、米共和党から絶大な信頼を得ている日刊紙だ。同紙の長年のスター記者、ビル・ガーツ氏は北朝鮮や中国関連のスクープを連発し、1999年に刊行した著作は全米ベストセラーになった。

4,文藝春秋が、統一教会の関連団体「ワシントン・タイムズ」の記者の本を翻訳出版

ちなみに、既に拙ブログで書いたことだが、ビル・ガーツ記者の書いた本は、いま旧統一教会糾弾の先頭に立っている文藝春秋が邦訳出版している。

しかも、原書が刊行されたその年のうちにだ。(『誰がテポドン開発を許したか~クリントンのもう一つの“失敗”』仙名紀訳、1999年11月)

『誰がテポドン開発を許したか』文藝春秋のカバー表、裏より

日本を代表する出版社の文藝春秋が、統一教会系として有名な「ワシントン・タイムズ」の記者の翻訳本を出して「ワシントン・タイムズ」にお墨付きを与えたわけで、これを知った多くの日本人や国会議員は、「文藝春秋ほどの大出版社が翻訳を出すくらいだから、ワシントン・タイムズはいい新聞なのだろう」と思ったはずだ。

にもかかわらず、文藝春秋は『週刊文春』紙上で「統一教会とその関連団体と接点を持つのは許されない」とする執拗なキャンペーンを張ってきた。

しかし、全国霊感商法対策弁護士連絡会をはじめ多くのマスコミの見解によると、統一教会とその関連団体に「お墨付き」を与えると、社会的に真っ当な存在と認知したことになり、教団は勧誘がしやすくなって「被害者が増える」とのこと。

この見解に従うならば、文藝春秋は統一教会の関連団体の記者の本を邦訳出版したことについてひと言あってしかるべきだろう。

同書を出版する際に「被害者」のことを考えなかったのか? 考えなかったとしたらそれはなぜなのか? 責任をとるつもりはあるか?

このような想定される質問に答える義務があるはずだが、今に至るも音沙汰なし。

彼らは自分たちがやっていることに矛盾を感じないのだろうか。もし感じないとしたら、とんだご都合主義である。

「関係を持つなんて許されない!」と統一教会とその関連団体、接点のあった議員たちを糾弾するのなら、真っ先に日本を代表する出版社である自分たちの会社を槍玉に挙げるべきだ。

当時の小泉純一郎首相は「日本統一教会の大幹部」とも会い、話を聞いた。政治の世界で成果を出すためには、利用できるものは利用する貪欲さが必要だ。

小泉内閣の場合、その度量の広さが長期政権につながったのかもしれない。

おそらく安倍晋三氏もそうだったのだと思う。安倍元首相の政治信条の1つは、拉致問題を解決することだった。

第1次政権時代は教団とは疎遠だったようだが、第2次政権になってから、統一教会とのパイプは必要と考え直した節がある。

この時はもう「コンプライアンス宣言」(2009年)も出て、教団は霊感商法との訣別を宣言していたし、マスコミ等で話題になることもなくなっていたからだ。

5,狭量な小泉進次郎氏は、今後、政治家として成果を残せるのか?

安倍元首相のことはさておき、ここで言いたいのは、「黒でなければ付き合う」という態度を取った小泉元首相と、「白でない限り付き合わない」という態度を鮮明にした小泉進次郎氏との違いである。

どちらが政治家として多くの業績を残せるだろうか。ビジネス関係者なら、この世の中、人脈と主義・主張を超えた幅広いつながりを持たいないと、大きな仕事はできないと痛感しているはず。政治だって同じだろう。

AERAには小泉首相に続けて、もう1人の自民党政治家の名前が登場する。

今年(2007年)1月には山崎拓元自民党副総裁が訪朝したが、段取りしたのは統一教会系の米紙ワシントン・タイムズ社長だったとされる。

事実なら、山崎拓氏もしっかりと利用できるものは利用したわけだ。わざわざ世間的に評判の悪い統一教会系の人脈に頼ったということは、山崎氏は他に北朝鮮とのパイプを持っていなかったことを意味する。

山崎拓氏の訪朝にどんな意義があったのか疑問は残るが、いずれにせよ、山崎氏が「白でない限り付き合わない」という偏狭な考えの人物であったら訪朝は実現しなかっただろう。

これに対して「旧統一教会および関係団体とは断絶する」という方針を出し、今日に至る宗教弾圧の引き金を引いた岸田首相、そしてその方針を地元地方組織で徹底すると表明した小泉進次郎議員は、その狭量さにおいて、政治家としては小人物と評せざるを得ない。

とても大きな仕事を成し遂げられるとは思えないのだ。

【追記1】

ところで、安倍元首相が2021年秋にメッセージ動画で出演したUPF(天宙平和連合)のイベントには、安倍氏の出演が決まる前、3人の元首相が候補に挙がっていたが、3人とも断られたという。

UPF日本の梶栗正義代表の音声が流出したのを前にテキストで読んだが、この3人のうち1人はあと一歩で出演が決まりそうだった。しかし、最終的に「どうせ宣伝に使うんじゃないのか」と言われ、断られたと書いてあった。

この、あと一歩で出演が決まったかもしれない元首相こそ、UPF日本にとっての本命だったはず。

だいたい安倍元首相は韓国では人気がない。韓国人の間では「歴史歪曲の極右」というイメージが浸透しているからだ。UPFの事実上の本拠地は韓国。韓国UPFにとって安倍元首相が本命でなかったことは明らかだ。

安倍元首相が動画出演を承諾したのは、トランプ前大統領が出るから。それ以外には考えられない。

【追記2】

tsurishinobu.hatenablog.com