吊りしのぶ

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相変わらず「解散命令請求」ありきの偏向した産経新聞報道~「警察につないだ115件」のうち刑事事件化したものはゼロなのに!

産経新聞の旧統一教会報道が悪質でひどいことは、これまで何度も書いてきた。

どう悪質でひどいかというと、全国霊感商法対策連絡会の弁護士やマインドコントロール論の専門家、政府筋、被害者の情報や説明を垂れ流すだけで、教団側の言い分や反論には取り合わず、自ら考え、自ら調べることもせず、思考停止のまま記事を書いているからだ。

他紙とて大同小異なのだろうが、お金を払って購読しているだけに、産経新聞の悪質さ、ひどさが気に障る。

■「旧統一教会をつぶせ」路線をひた走る産経新聞。保守派の産経も所詮は大衆迎合か?

産経は、マスメディアの中で正論路線を貫き、保守の立場を臆することなく打ち出している貴重な新聞だ。

しかし、その旧統一教会報道を読んでいると、やたらとマインドコントロール論(疑似科学なのに!)を強調するし、信者は「教義を刷り込まれた」存在だとか、救済新法は2年を待たずに見直すべきだとか、「日本はサタンの国だ」と統一教会は言っているとか、啞然とするようなことを書いていて、バカじゃなかろうかと思う。

政治、経済、安全保障などの記事や論説と違って、他紙とは異なる視点、異なるアプローチというものがまるでない。

「旧統一教会をつぶせ」という世論が沸騰している時に、新聞がやるべきことは何なのか。世論と同じ目線で批判的記事を量産することか?

違うだろう。新聞紙上を法廷に見立てて、批判にさらされている教団側、信者側の意見や指摘にも耳を傾け、そこにどれほどの真実性があるかを取材によって明らかにすることが大事なはずだ。

日本共産党や左派系弁護士団体が旧統一教会を敵視し、憎悪をむき出しにして攻撃する様を見れば、裏に何かあると考えるのが自然だ。

左派イデオロギーとそれを体現した人・組織の悪辣さ、卑劣さをよく知っているはずの産経新聞にして、その視点がないことが残念でならない。

www.sankei.com

12月19日の産経ニュースにはこう書いてある。

厚労省調査のポイントとなる養子縁組あっせん法は、無許可のあっせんに対し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。

教団は平成30年の同法施行以降も31件の縁組があったことをすでに認めており、仮に同省が違法性があるとして刑事告発に踏み切れば、捜査当局の捜査を経て、解散命令に向けた補強材料に加わる可能性がある。

現状、教団関連で刑事事件化の可能性がある唯一の事案との指摘もあり、同省関係者は「調査には慎重さが求められる」とする。……

一読して記者は厚労省サイドの立場で書いていることが分かる。

■政府が警察につないだ相談約70件(115件)のうち、現時点で刑事事件化したものはゼロ、全部空振り!

しかし、不思議に思わないのだろうか。岸田首相は月刊「WiLL」1月号の櫻井よしこ氏との対談でこう述べていた。

政府が設置した相談窓口には、1カ月足らずで約1700件もの相談が寄せられ、そのうち警察につないだ件数も多い。

これは、岸田首相が「質問権」行使の方針を表明した理由について述べた箇所の一節である。

松野官房長官は、岸田首相が「多い」と語った「警察につないだ件数」を「約70件程度」としている。

2022年9月5日から同月30日までの間に(政府が開設した合同電話相談窓口に)寄せられた旧統一教会に関する相談約1700件のうち、警察につないだ相談は速報値で約70件程度。(10月18日午後の記者会見

警察につないだということは、刑事事件化する可能性があるということだ。

岸田首相は質問権行使の理由の1番目に、宗教法人本体の「使用者責任」「不法行為責任」を認めた民事裁判22件(賠償認容額計14億円以上)を挙げた。

そして、2番目に挙げた理由が「1カ月で相談が約1700件、警察につないだ件数が約70件」だった。

期間を延ばして10月31日までのデータを見ると、警察につないだ相談は115件となっている。(「旧統一教会」関係省庁連絡会議「相談状況の分析(9月5日~10月31日)」PDF

ここで産経新聞記者に聞きたい。

あれからもう2、3カ月経った。この70件もしくは115件はその後どうなったのですか? その中に刑事事件化されたもの、されそうなものはいくつあるんでしょうか?

少なくとも現時点で「刑事事件化されたもの」があったという報道はない。「刑事事件化されそうなもの」があるという報道もない。

あれば、警察がリークしてもよさそうなもの。しかし、今に至るも音沙汰なし。

115件のうち刑事事件化されたものはなく、されそうなものもない。つまり、岸田首相が大いばりで「警察につないだ件数も多い」とアピールした被害相談は、全部空振りだったということだ。

だからこそ、産経記者は「現状、教団関連で刑事事件化の可能性がある唯一の事案との指摘もあり」と書いたのだろう。

養子縁組あっせん法違反疑いの案件以外で、刑事事件化できそうなものはなかったのである。

だとしたら、岸田首相が「質問権」行使の根拠とした「警察につないだ件数約70件(期間を延ばしても115件)」は、ただの蜃気楼だったことになる。

岸田首相は、警察にこれだけの数の相談をつないだのだから、その中の少なくとも数件は刑事事件になると踏んだのかもしれない。刑事事件化すれば、旧統一教会を確実に解散に追い込める、と。

しかし、それは「期待外れ」だったわけだ。

■「何が何でも旧統一教会を解散に追い込むべき」という宗教弾圧的発想で記事を書く産経新聞記者

刑事事件になるかもしれない相談が何十件、何百件あろうとも、実際に刑事事件化した件数がゼロならば、そんなものが「質問権」行使の正当な理由、ましてや「解散命令」請求の理由になるはずがない。

警察につないだ相談のうち刑事事件になったものはない。岸田首相は、単に相談が多数あったというだけで、なぜ「質問権」の行使を表明したのか? 見通しが甘く、時期尚早だったのではないか?

まともな記者ならば、このような疑問を抱くはずだ。

ところが、産経記者は違った。

記者は「同省(厚労省)が違法性があるとして刑事告発に踏み切れば、捜査当局の捜査を経て、解散命令に向けた補強材料に加わる可能性がある」と書き、これしか刑事事件化できそうなものがないのだから、養子縁組あっせん法違反で刑事告発できるかどうかが決定的に重要だ、とほのめかすのである。

ここには、何が何でも旧統一教会を解散に追い込むべき、という宗教弾圧的発想しかない。

産経記者は、岸田首相が挙げた「警察につないだ件数約70件(もしくは115件)」がただの蜃気楼だったことに一切触れていない。

このことは「質問権」行使の根拠の一画が崩れたことを意味するのに、記者は何の疑問も抱かないようだ。実に不思議である。

「過剰な権力行使(行政権の濫用)だったのではないか? この程度のことで解散命令を請求するのは無理筋ではないか?」と、記者として自問自答している様子もうかがえない。

■「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」は見当たらない

おそらく産経記者は、宗教法人法第81条1項1号をちゃんと読んでいないのだろう。

そこには解散命令の事由がこう書かれている。

法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。

では、旧統一教会は、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたのだろうか?

宗教法人の「使用者責任」を認めた20件の民事裁判よりも、法人本体の「不法行為責任」を認めた2件の民事裁判の方がより重大だという。

しかし、マスコミはこの2件の判決が確定したとき、ほとんど報じなかった。大手紙がベタ記事で載せた程度。毎日新聞に至っては全く報じなかった。

しかも、今から5~6年も前の判決であり、問題とされた事案の大部分が2009年に教団が発出した「コンプライアンス宣言」以前の出来事である。

これらの判決と報道については、月刊「正論」1月号で原英史氏が論じている。

tsurishinobu.hatenablog.com

日本国民の中で、この2件がどんな民事事件で、教団本体が具体的にどんな悪いことをしたのか、知っている人がどのくらいいるのだろう?

「法人本体の不法行為責任を認めた2件の民事判決って、どういうものですか?」と聞かれて、「それはこういう事件で、こんな判決ですよ」とすらすら答えられる人が一体どれだけいるのか?

霊感対策弁護士や旧統一教会問題をフォローしている一部の人を除けば、ほとんどいないだろう。

それでどうして「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」と言えるのか?

旧統一教会は殺人事件を起こしたわけでも、法人本体が詐欺を働いたわけでもないのだ。

結局、法人本体の「不法行為責任」判決2件にしろ、「警察につないだ件数約70件(もしくは115件)」にしろ、養子縁組あっせん法違反での刑事告発(現段階では臆測)にしろ、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に該当するとは考えられないのである。

法人本体の「不法行為責任」判決2件は、多くの新聞がベタ記事でしか報道しなかった案件であり、「警察につないだ件数約70件(もしくは115件)」も問題になるものは出ていない。

■解散命令が出た明覚寺事件の西川被告は、詐欺罪で懲役6年の実刑判決

養子縁組あっせん法違反についても、仮に今後、刑事告発に至ったとしても、これまでの教団側のコメントを見る限り、犯意は薄く、100万円以下の罰金刑にとどまる可能性が高い。

かつて解散命令が出た明覚寺事件の西川義俊被告は、詐欺罪により懲役6年の実刑判決が最高裁で確定した。それと比べ格段に罪は軽い。

確かに民事での22件の「不法行為」に刑事の「有罪」判決が加われば、公共の福祉を害したとは言えるだろう。

しかしそれは「著しく公共の福祉を害した」とまで言えるようなものではないし、「(そのように)明らかに認められる行為をした」とも言えない。

もし旧統一教会の行ったことが、本当に養子縁組あっせん法に違反し、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」だというなら、とうの昔に警察が同法違反容疑で教団の捜索に入っていなければおかしい。

厚労省が1回、2回と質問を重ねているのは、教団の行為が「明らかに認められる行為」ではないからだ。

■宗教法人法は、解散の根拠として「犯罪行為」を想定している

なお、岸田首相は国会で、民法上の不法行為も解散命令の根拠たりうるとの解釈を示したが、これまでの法解釈は違っていた。

平成7年(1995年)11月29日の参議院宗教法人等に関する特別委員会における政府答弁は次の通り。

「(宗教法人法第81条1項1号については、)法令に違反し著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたということであるから、これは恐らくほとんどの場合、犯罪行為といったもの以外にはあまり事例がないのではないかというふうに考えられ…」

このように、想定されているのは刑法犯罪であって、民法上の不法行為ではない。

また昭和31年(1956年)6月3日の衆院法務委員会調査局長答弁は、

「この81条をごらんいただきますと、その第1項に『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。』と、非常に限定的な書き方をしておるわけでございます。

この81条によって所轄庁たる文部大臣が解散請求をいたそうというような場合は、法令に違反して、かつ、著しく、著しくということがついております。

しかも、明らかに認められるというような客観的な事実をもってやるという、非常に法文の規定としては限定的に書かれておるように私どもは解釈しております」

となっている。

新聞のベタ記事にしかならない民法上の不法行為は「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められるような客観的な事実」には該当しない。

そのような行為を理由に解散命令を請求するのは、宗教法人法の条文からみて飛躍がありすぎるのだ。