旧統一教会をめぐる報道を見てきて痛感したのは、マスコミは特定の、または偏った情報源から得た情報だけで平気で記事を書き、ニュースを作るということだ。それでいて、「我々はちゃんと取材している」と平気で開き直る。
取材はしているんだろうが、取材で得た情報を検証し、ファクトチェックし、そこから真実を見つけ出そうとしているかと言えば、そんな気配はみじんも感じられない。
記者たちは、取材しても、肝心の頭は使っていないのではないか?
要するに、垂れ流しだ。聞いたことをそのまま書くだけ。
官庁が発表するものを記事にまとめてニュースにする、いわゆる“発表ジャーナリズム”に慣れきっているから、まともな取材ができないのだろう。
旧統一教会問題に限らず、これまでも同様の手法でやってきたと思われる。マスコミ報道というものが根本的に信じられなくなったこの1年であった。
次の日テレニュースも、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)や文化庁関係者から得た情報を垂れ流したもの。
ニュースを見ても、記者が情報を自分で検証し、ファクトチェックした形跡はうかがえない。
記者はこの中で、霊感対策弁連(全国弁連)の謀略情報を何の疑いもなく、そのまま書いている。
“統一教会”は2022年7月に行った会見で、宣言(注・2009年のコンプライアンス宣言)以降は民事訴訟は減ったなどと主張しているが、全国弁連などによると宣言以降も教団絡みの相談が多く寄せられているという。
これが正しくないことは、霊感対策弁連の山口広氏が自ら告白している。
10月13日の拙ブログで紹介済みだが、山口広弁護士は22年7月の「消費者法ニュース」(132号)でこう書いていた。
旧統一教会関連の相談は減りましたが、聞いたこともないミニ集団や個人教祖による被害相談が増大しており、弁連事務局では対応に苦慮しています。
弁連が紹介できるカウンセラーも極めて限られています。
相談内容も短絡的でご自身や家族がなぜこんなことにはまってしまったかについて自分を振り返る姿勢が欠けているような事例もある。
親が考える枠にわが子をはめこむことを当然と考えることを改めようとしない両親の話を聞いて、こんな親なら自立心のある子は親から逃げたくもなるだろうなあと思う件もある。
この記述は7月の安倍元首相暗殺事件が起きる前のものだ。
旧統一教会関連の相談が減って、ミニ集団や個人教祖による被害相談が増え、事務局が対応に苦慮するほどだと告白している。
「宣言以降も教団絡みの相談が多く寄せられている」がいい加減な発言であることは、消費者庁が公開したデータによっても裏付けられる。
これは消費者庁に寄せられた「霊感商法(開運商法)」に関する年度別相談件数だ。出所は消費者庁「旧統一教会に関する消費生活相談の状況について」(22年9月30日)。
公開データのある2012年度以降、相談件数は229件から激減し、2021年度は27件まで減っている。
(※7月以降急増したのは、言うまでもなく「魔女狩り報道の嵐」によるもの。霊感商法・開運商法は旧統一教会の専売特許ではない。教団以外の団体や人がどんなことをやっているのか、やってきたのか、どんな相談が寄せられているのか等を同じように連日報道すれば、それらの相談件数も急増したに違いない。比率としては、2021年の霊感商法・開運商法の相談件数のうち、旧統一教会以外のものが98%を占める)
相談があるのは事実としても、「右肩下がりで減っている」「激減している」わけで、「宣言以降も相談は多い」は極めてミスリードな表現だ。
この事実を踏まえれば、日テレ記者は「多いと言うが、その多さはどのくらいなのか?」と疑問を持ち、霊感対策弁連の持っているデータを自ら検証するべきだった。
ところが、記者はそんなことは全くやらない。霊感対策弁連のコメントを無批判に記すのみ。
彼らのデータはHPで公開されているのだから、自分で調べればいいのに、やらないのだ。
霊感対策弁連の集計データを見ると、彼らの言う「被害件数」は、消費者庁分も含めコンプライアンス宣言前の2008年は1,510件、宣言が発出された2009年は1,113件である。
これがその後どう変化したかを見ると、2010年には621件と一気に半減し、2021年には47件まで減少した。
「右肩下がりで減っている」「激減している」は、霊感対策弁連自身のデータによって明確に裏付けられる。
「全国弁連などによると宣言以降も教団絡みの相談が多く寄せられている」という日テレの報道は、上記ファクトを表現する言葉として果たして適切だろうか?
フェイク、ウソとまでは言わないが、不適切な表現であることは間違いない。
「旧統一教会は2009年のコンプライアンス宣言後も変わっていない」というイメージを作りたい霊感対策弁連の謀略情報を、日テレはそのまま垂れ流したにすぎない。日テレ記者は霊感対策弁連の御用ジャーナリストみたいなものだ。
霊感対策弁連の謀略的体質は、上に掲げた「消費者法ニュース」の山口広弁護士の文章からも容易に推測できる。
彼は、最近はミニ集団や個人教祖による被害相談が増えたと嘆いている。そのうえで、
- 「相談内容も短絡的」
- 「ご自身や家族がなぜこんなことにはまってしまったかについて自分を振り返る姿勢が欠けている」
- 「親が考える枠にわが子をはめこむことを当然と考えることを改めようとしない両親」
- 「こんな親なら自立心のある子は親から逃げたくもなるだろうなあと思う」
などと、相談してきた人や家族を叱責しているのだ。しかも、「こんな親」と放言する始末。
ところが、どうだ。話が旧統一教会になると、山口氏ら霊感対策弁連の弁護士たちは態度を一変させ、教団ばかりを非難する。
それも口を極めて非難し、マスコミに対し「被害者は教団によってマインドコントロールされていた」とか「教団が家族を崩壊させた」とか言って、相談者やその家族を叱責するようなことはまず言わない。
挙げ句の果てに「被害者の救済が急がれる。早く救済法を作るべきだ」などと、政府や与野党の尻を叩いてきたのである。
相手が旧統一教会になると豹変する、この二枚舌はどこから来るのか?
もちろん、それは旧統一教会をつぶすべき対象とみる、彼らの左派イデオロギーに由来するものだ。
旧統一教会は「反共・勝共」を掲げ、関連団体を通じて積極的に政治活動を行い、保守政界に影響力を持つがゆえに何としてもつぶしたい。
だから、同じ被害相談でも、通常なら、そんなことになったのは本人や家族にも原因があるんじゃないかと考えるのに、旧統一教会がらみだと「全部教団が悪い」という方向へ話を持って行くのである。
ナイーブな日テレ記者には霊感対策弁連の底意を見抜く力はなく、いいように彼らに利用されている。
文化庁への取材でも、日テレ記者は情報を鵜呑みにして、彼らの言葉を垂れ流すだけである。
宣言の順守の状況について報告を求める意図を、文化庁は「宣言のあとにも献金や勧誘を巡る裁判が起きるのは、教団の対策が不十分だからだとか、おかしいのではといった話につながってくる」「違法な行為をやらない、やらせないと宣言していたにもかかわらずやってしまった信者がいるわけで、ここから教団の体質がわかるかもしれない」などと説明している。
この文化庁の説明はおかしい。なぜなら、2009年(平成21年)のコンプライアンス宣言後に起こされた裁判が、宣言後に起きたトラブルを対象にしているとは限らないからだ。
このことは、上に掲げた消費者庁資料の「相談件数」を見ても分かることだ。表の注記として、
(注4)相談受付日ケースの集計であり、いずれの年度も過去の契約等に関する相談が含まれている。
と書かれている。
消費者庁は公的機関だから、何事も定義をはっきりさせる。つまり、2021年の相談件数が47件と記録されても、その相談内容はその年の出来事に関するものとは限らず、過去の出来事に関する相談かもしれない。
その年に起きたことで相談した人もいるだろうが、5年前、10年前のことで相談した人もいるかもしれない、ということだ。
コンプライアンス宣言後に起こされた裁判についても、同じことが言える。
例えば、統一教会本体が組織的な不法行為責任を負うとした「2017年12月26日東京高裁判決」を見てみよう。
これは2012年の東京地裁への提訴が出発点だ。
では、なぜコンプライアンス宣言後の2012年に裁判が起こされたのか? 理由は簡単で、原告が統一教会を脱会したのが2011年(平成23年)の4月下旬頃だからである。
高裁判決(平成29年(ネ)第870号損害賠償請求控訴事件)には次のように書かれている。
原告は、平成21年10月14日、韓国において、韓国人の信者であるXYZ(以下「X」という)との間で合同結婚(祝福)式を挙げた。
なお、被告家庭連合においては、文鮮明の選んだ相手と合同結婚式を挙げることを「祝福」と呼んでおり、法律上の婚姻とは異なる概念である。
この時点では、原告とXは法律上の婚姻関係にはなかった。
原告は、平成22年12月頃、婚姻の準備を理由に日本へ帰国したところ、家族に説得され、Xを含む被告家庭連合の関係者との連絡を絶ち、その後、原告がホーム(宿泊施設)に戻ることはなかった。
原告は、平成23年4月下旬頃、被告家庭連合に対し、脱会届を送付した。(注・XYZは置き換え)
拉致監禁による強制棄教の匂いがプンプンするが、そのことは確証がないのでさておき、通常、信者である間は裁判に訴えたりはしない。脱会したから訴訟を提起するわけだ。
コンプライアンス宣言が出た後も違法な悪徳商法を行ったり、相対的に過度な高額献金をさせたから裁判が起きるのではなく、信者が脱会したから、あるいは心変わりしたから裁判が起こるのである。
「2017年12月26日東京高裁判決」の場合、裁判で損害賠償請求の対象となったのは、当然、脱会前の時期であり、大半がコンプライアンス宣言が出る前の出来事だ。
この事例を見れば、「宣言のあとにも献金や勧誘を巡る裁判が起きるのは、教団の対策が不十分だからだとか、おかしいのではといった話につながってくる」という文化庁の説明がいかに的外れか分かるだろう。
次に、文化庁の説明「違法な行為をやらない、やらせないと宣言していたにもかかわらずやってしまった信者がいるわけで、ここから教団の体質がわかるかもしれない」について。
これも、教団本部がコンプライアンス宣言を発表し、教団内に通達するとともに、機関誌「中和新聞」にも載せて広く信者に知らせた事実がある以上、宣言が形だけのもので、実際には何も変わらなかった、なんてことは考えにくい。
宣言のあとに霊感商法が行われ、相対的に過度な献金の強要があったとすれば、それは教団の目の届かないところでなされた、と見るのが自然である。
このことは、旧統一教会という教団が、上から下まで厳格に統制・管理されている組織ではないことを証明しているのではないか?
「やらない、やらせないと宣言」したのに「やってしまった信者がいる」ということは、それだけ信者の行動の自由度が高いということだ。
だとすれば、宣言の趣旨を末端まで行き届かせるには、一定の時間が必要になる。その間に起きたトラブルまで教団本体の責任にするのはおかしい。
こう考えると、「教団の体質」を否定的に捉える理由は何もないことになる。日テレの記者はどう考えたのだろう?
思うに、日テレの記者は、「違法な行為をやらない、やらせないと宣言していたにもかかわらずやってしまった信者がいる」と言う文化庁に対し、問題になっている22件の裁判(教団に使用者責任がある=20件、教団本体に責任がある=2件)のうち該当する裁判は何件あるのか、またどの裁判かと聞くべきだった。
先ほど書いたように、22件の裁判には、宣言前の出来事を問題にしたものが含まれているからだ。では、宣言が出ているのに、それでもトラブルを起こしてしまい、民事裁判になった件数はいくつあるのか? また、それはどの裁判か?
この点を明らかにするのが、取材する記者の役目だろう。
しかし、日テレ記者は、文化庁の説明をそのまま垂れ流すのみ。踏み込んで質問することもない。
頭を使ってものを考えているんだろうかと言いたくなる。