「保守系高級誌」「エリート層の必読誌」のイメージが強かった『文藝春秋』がどんどん劣化している。ポピュリズム路線をひた走る『週刊文春』の後を追いかけているようだ。
安倍元首相殺害事件後には、旧統一協会と安倍元首相を無理やり結びつけ、死人に口なしをいいことに安倍氏をとことん貶める記事を載せていた(筆者は森健氏と文藝春秋特別取材班)。
1月号が掲載した記事も、世間の反統一教会感情に便乗したものだ。日本の信者の巨額の献金が北朝鮮に流れ、それが北朝鮮のミサイル開発に使われたというのである。
案の定、世界日報の調査でただの「臆測報道」であることが明らかになった。
リード文にはこうある。
月刊誌『文藝春秋』創刊100周年の新年特大号(2023年1月号)に掲載された記事「ペンタゴン文書入手 北朝鮮ミサイルを支える統一教会マネー4500億円」(柳錫+本誌取材班)が根拠にした米国防総省情報局(DIA)の情報報告書は「最終的に評価された情報=インテリジェンス=ではない」との警告付きであることが明らかになった。
同記事はこの事実を伏せたまま、報告書の内容の真偽を検証もせずに伝聞や類推発言を連ねるだけで論を進めており、根拠の乏しい憶測記事となっている。
その他にも重要な部分で事実誤認が明らかになった。
日本のジャーナリズムは、いつもこうだ。野党の立憲民主党などがやるやり方と同じ。「疑惑」レベルにすぎないことを、さも事実であるかのように報じる。決定的な証拠をつかんでこそ本物だが、日本では疑惑を書くだけでジャーナリストは飯が食える。
いい気なものだ。
しかし、愚かな大衆は「疑惑」が報じられると、いともあっさり信じてしまい、ファクトチェックをすることもなく、「疑惑」であるがゆえに留保することもせず、事実のように語り出すのである。
これが日本人の民度なのかと思うと自分の中の愛国心すらぐらついてくる。
ところで、『文藝春秋』1月号の記事は、世界日報の報道が事実なら、疑惑どころかただの「臆測記事」である。
同誌がどう反論するのか、しないのか。また「重要な部分で事実誤認が明らかになった」とする指摘にどう答えるのか、答えないのか。
成り行きを見届けよう。
ちなみに、有田芳生氏&週刊文春取材班が1994年の『週刊文春』2月3日号に書いた「北朝鮮に潜水艦を売っていたのは統一教会系企業だった~国際問題に発展必至」も、根拠薄弱な決めつけ記事だった。
この記事については、自分なりに資料を集めて分析したことがある。記憶頼みで書くと、
- ロシアと北朝鮮を仲介した企業(東園商事)が「統一教会系企業」という証拠はない
- 仮に統一教会系企業だったとしても、問題のロシア製潜水艦はスクラップで、北朝鮮に売却した後、鉄くずにして中国に転売するためのものだった
- 当時、日本政府は「念のため厳格な調査を実施する」として売却に待ったをかけた。そのため、同企業が実際に北朝鮮に引き渡したのは2、3隻(いずれもスクラップ)にとどまる
- 鉄くずにして中国に売却するまでのプロセスを同企業が見届けるはずだったが、日本政府の調査が長引いたため、販売元のロシアから仲介契約を解除されてしまい、上記プロセスに関与できなくなってしまった
という暫定的結論を得た。
この時、北朝鮮に渡ったロシア製潜水艦のスクラップが、北朝鮮当局によって徹底的に研究され、その後の潜水艦開発に役立てられた可能性はある。
しかし、それを旧統一教会のせいにするのは筋違いだ。
この理屈を成り立たせるには、仲介企業に対して旧統一教会の指示や命令があったことを立証する必要があるが、有田芳生氏らは、4名から成る同企業の社員がみな統一教会員だとしか言っていないのだ。
統一教会の信者が何人か集まって企業を作ると、それが「統一教会系企業」ということになるんだろうか?
信者にだって職業選択の自由があるだろう。仲間同士で企業を設立したからといって、その企業が統一教会傘下に入るとは限らない。自分たちで勝手にやっているかもしれないではないか。
教団傘下にあるのか、教団の指示や命令の下に動いている企業なのか。その点の解明こそが必要だが、有田氏らは解明できていない。すべて疑惑止まりである。
もっと言えば、有田氏らが統一教会員だという社員たちは、脱会した元信者という可能性もある。本当に現役の信者なのかという点についても、有田氏らは立証できていない。
結局、有田氏らは「疑惑」を報じたにすぎなかった。
記事には、潜水艦が武器として使えるものだった場合、仲介した企業は武器取引の仲介貿易を禁じた「外国為替及び外国貿易管理法」に違反する、とあったが、全国紙のバックナンバーを検索しても、その後、同企業が摘発された事実は確認できなかった。
つまり、仲介した企業の行為は、何ら法に触れるものではなかったのだ。
また、ロシアが同企業の仲介契約を解除したのは想定外の出来事だった。
それがなければ、同企業は契約どおり、北朝鮮に渡ったスクラップ潜水艦を鉄くずにして中国に転売するプロセスを管理したはずで、北朝鮮側にはスクラップ潜水艦を研究する余地はなかった。
ロシア当局が仲介契約を一方的に解除したことが問題を生んだのである。