吊りしのぶ

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名誉棄損で旧統一教会に訴えられた紀藤正樹弁護士と読売テレビは約30人の大弁護団。51人の浅見定雄VS室生忠裁判以来の頭数か?

旧統一教会が、紀藤正樹弁護士と「情報ライブ ミヤネ屋」を制作する読売テレビを名誉棄損で訴えた裁判の第1回弁論が2月13日、東京地裁で開かれたようだ。

教団側は損害賠償計2200万円と謝罪広告などを求めている。

www.bengo4.com

記事を読んで2回笑ってしまった。

1つ目は、

被告側は、言論の封殺や萎縮を目的とした「スラップ訴訟」にあたるなどと主張。

の箇所。

全くよく言うよ。紀藤さんは浅見定雄VS室生忠裁判のことをもう忘れたのか?

「カルト問題」を追いかけていた宗教ジャーナリストの室生忠氏は、ふとしたことで旧統一教会信者に対する拉致監禁・強制棄教の問題を知り、調べていくうちに、こんな犯罪行為を放置することは許されないと反統一教会勢力を告発するようになる。

室生忠氏は、月刊誌「創」の2000年3月号~8月号で「連載 知られざる『強制改宗』をめぐる攻防」を発表して波紋を広げた。

この時、同連載により名誉を棄損されたとして、統一教会批判で知られる論客の1人、浅見定雄・東北学院大学名誉教授(日本基督教団の教師資格を持つらしい)が室生氏と月刊「創」編集長の篠田博之氏、創出版を訴えたのだ。

この裁判は地裁、高裁で室生氏が敗訴し、2003年6月27日、最高裁で上告が棄却され、判決が確定した。

判決は旧統一教会に厳しい世論におもねる不当なものだった(と自分は思う)が、一方で室生氏の取材・執筆活動には公益性があると認め、拉致監禁による棄教強制について重要な指摘もしている。

信者の親族等による行き過ぎた改宗を迫る行為の頻発が社会問題となっていたことは公知の事実であり、一定の宗教の信者に対し、その改宗を迫る行為は、社会一般の人すべてにかかわる問題……*1

東京地裁はこのように認定した。

浅見VS室生裁判は、名誉棄損をめぐる裁判であり、直接に拉致監禁による棄教強制の是非を争った裁判ではない。

しかし、判決は、この問題の真相を追求する室生氏の活動を「専ら公益を図る目的でなされたもの」と肯定的に評価したうえで、上記のように述べたのである。

つまり、旧統一教会側が再三再四問題にしてきた反統一教会勢力による拉致監禁を「行き過ぎた改宗を迫る行為の頻発」と表現して批判したのだ。

反統一教会勢力は「拉致監禁は統一教会の宣伝だ」などと言っているが、とんでもない話だ。

彼らは信者を棄教、改宗させる行為を「保護説得」と呼んで、正義の行いのように触れ回っているが、「行き過ぎた改宗を迫る行為の頻発」というくだりは、どう転んでも彼らの言う「保護説得」なるものを批判した言葉ではないか。

この点について、室生氏と同じく、反統一教会勢力の拉致監禁・強制棄教を厳しく批判してきたジャーナリストの米本和広氏は、

これ(室生氏の連載)に対して、元東北学院大学教授の浅見定雄氏(日本脱カルト協会元理事長、現顧問)が名誉毀損で提訴した。

結果は室生氏の敗訴で終わったが、仮に判決が正しかったとしても、それは記事全体のごくごく一部が間違っていただけの話である。

それにもかかわらず、反統一教会陣営は裁判に勝訴したとわざわざ『ペンよ、奢るなかれ』という小冊子まで作って、室生氏の記事すべてが間違っていたかのようなキャンペーンを展開した。

いったい、これはなんなのか。

と喝破している。

以上、浅見VS室生裁判については室生忠著『日本宗教の闇』を参照した。

同書は数々の拉致監禁裁判を取材して記録、分析した貴重な本である。判決からの引用も多く、信憑性が高い。また室生氏と共に訴えられた月刊誌「創」編集長・篠田博之氏の見解(「創」2002年3月号)も掲載されている。

ちなみに、篠田氏は当時、原告浅見定雄氏サイドの動きを「極めて政治的」と批判した。*2

なお、今の日本では忘れられてしまったが、2010年頃、国連人権理事会や国際的な人権団体の国際会議で拉致監禁問題が大きく取り上げられたことがある。

一部の国際会議には、紀藤正樹弁護士や鈴木エイト氏も参加しており、統一教会側の拉致監禁体験者やレポート発表者に反論を行った。室生氏はその様子も取材し記事にしており、なかなか興味深い。

さて、自分が笑ったのは、浅見定雄氏の名誉棄損裁判に深く関わったのが紀藤正樹弁護士だからだ。

以下の日本基督教団のサイトでは、この裁判を含む3つの裁判に関連して、

「この裁判の代理人となって心血を注いで弁護してくれた山口広、渡辺博、紀藤正樹の三人の弁護士に心より感謝したい」

と書かれており、紀藤弁護士は浅見定雄氏の代理人の一人だった。

uccj.org

紀藤弁護士の「2004年8月11日以前の情報」を載せたHPにも、

控訴審でも、室生忠氏と月刊誌「創」に勝訴しました!Up03/03/10 最高裁で確定しました。

多忙で公表が遅れていましたが、報道被害の救済を志向する雑誌だったはず?の月刊誌「創」による「報道被害」について、再度、控訴審で勝訴しました。

と書かれている。

masakikito.com

ここには室生氏の謝罪文なども載っている。

しかし、おかしいではないか。浅見VS室生裁判は、浅見定雄氏が室生氏を訴えた裁判だ。しかも、書き手の室生忠氏だけでなく、月刊誌「創」の編集長と出版元の創出版まで訴えている。

今、紀藤正樹氏は旧統一教会から訴えられて、「言論の封殺や萎縮を目的とした『スラップ訴訟』」だと怒っているが、自分が代理人を務めた浅見氏だって、室生氏と直接論戦することなく、いきなり訴えたではないか。

しかも、浅見氏は掲載責任があるとして雑誌の編集長と出版社も一緒に訴えたのだ。

失礼ながら月刊誌「創」は読売テレビのようなマスコミとは言えない、いわば中小企業。言論の封殺効果、委縮効果は、こちらの方がはるかに高いのでは?

もう1つ笑ったのは、記事の最後の箇所だ。

原告側代理人の出廷は福本修也弁護士1人だったが、被告側は約30人の「大弁護団」が詰めかけ、独特の緊張感を醸し出していた。

統一教会側の代理人が1人だったから笑ったのではない。被告側代理人の人数を見て笑ったのだ。

なんと約30人の大弁護団を組んだという。紀藤正樹氏と読売テレビは、30人もの弁護士を付けないと勝てないと踏んだわけだ。

弁護士を大勢付けるのは、反統一教会勢力の常套手段なんだろうか? 確か有田芳生氏も弁護士を5人揃えたとツイートしていたような。

実は、かつて浅見VS室生裁判で浅見定雄氏側に名を連ねた代理人弁護士は、驚くなかれ、51人だった*3。代理人弁護士が51人! 驚きを通り越して仰天するしかない。

30人とか51人とか、これほどの数の弁護士が法廷に集結した光景とはどんなものなのだろう? 裁判官はどうしたって威圧されるんじゃないだろうか。あるいはそれが狙いなのか?

素人の自分にはよく分からないが、訴えた側が弁護士1人なのに、弁護士30人を擁する被告側が「言論封殺だ、スラップ訴訟だ」と大騒ぎするのは、どう見てもあべこべのような気がするが。

*1:『日本宗教の闇』p.224

*2:『日本宗教の闇』p.227

*3:『日本宗教の闇』p.233