- 1,元徴用工という呼称は間違い
- 2,尹大統領の英断だが、日韓間の基本ラインに立ち戻っただけ。褒めることでもない
- 3,「村山談話」の継承を表明する? 正気とは思えない愚策
- 4,謝罪外交との訣別に苦心惨憺した安倍元首相。岸田氏は側で見ていたのではなかったか?
- 5,日韓両首脳が確認すべきは、1965年の日韓基本条約と請求権協定
- 6,「日韓共同宣言」「村山談話」「反省とおわび」を持ち出すな!
- 7,日本を「永遠に謝罪し続ける国」にしておくための「村山談話」
- 8,追記:「歴代内閣の談話を全体的に引き継ぐ」とだけ言うならセーフだが…
いわゆる元徴用工訴訟で大きな進展があるらしい。だが、報道されていることが事実ならば、進展といっても少しも喜べない。
「岸田首相は血迷ったのか」と書いたが、本当は「気でも狂ったのか」と書きたいくらいだ。まさかここで「村山談話」が出てくるとは予想もしなかった。
1,元徴用工という呼称は間違い
元徴用工訴訟というけれど、原告で実際に徴用された人は一部である。募集や官斡旋で働きに出た人たちは徴用工ではない。日本政府はこの点を明確にするため、「元徴用工」という呼称をやめ、「旧朝鮮半島出身労働者」と言い換えてきた(NHKの解説、日経新聞の解説)
それなのに日本のマスコミが政府の方針に従おうとせず、「元徴用工」と言い続けたから、おかしな呼び方が国民の間に浸透してしまった。
朝日新聞は、「反撃能力」という用語を使う政府に反旗を翻して「敵基地攻撃能力」と言っているが、「元徴用工」に関しては、あらゆるマスコミが政府の正しい言葉遣いを無視してきた。嘆かわしい限りだ。
2,尹大統領の英断だが、日韓間の基本ラインに立ち戻っただけ。褒めることでもない
今回、韓国側が日本企業に賠償を求めない方針を打ち出したのは結構なことだと思う。しかし、そもそもこの問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みなのだから、当たり前の対応である。
別に尹政権を褒めるようなことではないだろう。
「やっと日韓間の基本ラインに立ち戻ってくれましたか。今後はこういうことのないようにしてくださいよ」
という程度の話だ。
3,「村山談話」の継承を表明する? 正気とは思えない愚策
ところが、岸田内閣は何を血迷ったのか、韓国の国民感情をなだめるために、韓国側の要求に屈して小渕・金大中両政権下で合意した「日韓共同宣言」(1998年)や悪名高い「村山談話」(1995年)の継承を表明するのだという。正気なのか?
同紙(3月4日の読売新聞)によると、韓日両国政府が重視する文書は1998年に当時の金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相が発表した韓日共同宣言だ。
小渕首相は過去の植民地支配に対し「痛切な反省と心からのおわび」を表明し、金大統領は「不幸な歴史を乗り越えて未来志向的な関係を発展させる」と呼び掛けた。
1995年に当時の村山富市首相が発表した談話にも植民地支配に対する「痛切な反省」と「心からのおわび」が含まれた。
岸田首相が植民地支配を含んだ歴史問題に対する立場に変化がないという点を明確に表明することで韓国側の解決策発表に呼応するというのが日本政府の構想だ。
「村山富市首相」の文字を見たときは、亡霊が甦ってきたような感覚を覚え、無性に腹が立った。
4,謝罪外交との訣別に苦心惨憺した安倍元首相。岸田氏は側で見ていたのではなかったか?
岸田首相は、謝罪外交との訣別に苦心惨憺した安倍内閣の外務大臣だったではないか。安倍元首相が河野談話や村山談話の無効化にどれだけ苦労したか、直接その目で見てきたはずだ。
2015年の慰安婦合意で安倍氏が涙を呑んで謝罪の言葉を述べたのも、これが最後、これで終わりにするという強い決意があったからだ。その慰安婦合意をとりまとめたのは当時の岸田外相である。
そもそも旧朝鮮半島出身労働者の訴訟問題は、慰安婦問題とは性格が違う。日本が謝罪するとかおわびするとか、そういう問題ではない。日本側には一切非がないのに、なんで反省とかおわびとか、そんな言葉が出てくるのかサッパリ分からない。
植民地支配の反省とおわびを述べた村山談話は、戦後70年の安倍談話によって既に遠い過去のものとなった。
せっかく安倍元首相が上書きして、その効力を減殺したのに、今になって「村山談話を継承する」なんて言ったら、また息を吹き返してしまうではないか。いったい岸田首相は何を考えているんだろう。
まだ事前報道だから本当のところは分からないが、事実とすれば本当に残念な話だ。
5,日韓両首脳が確認すべきは、1965年の日韓基本条約と請求権協定
「日韓共同宣言」も、今さら継承する必要なんかない。日韓の過去史に関しては、昭和天皇まで「遺憾の意」を表明している。その上で小渕首相が「痛切な反省と心からのおわび」を述べた。これ以上、何が必要だろうか。
岸田首相が尹大統領との間でやるべきは、日韓関係の基礎が1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定にあると改めて宣言することだろう。
両国関係悪化の根本原因は、韓国政府がこの基本ラインを外れ、旧朝鮮半島出身労働者が起こした訴訟と判決に振り回されたことにあるからだ。
6,「日韓共同宣言」「村山談話」「反省とおわび」を持ち出すな!
植民地支配の反省とかおわびとか、そんなものはこの問題と無関係である。
日本がそれに触れないと韓国内の反発を抑えられないというなら、「日本政府は1998年の『日韓共同宣言』で『痛切な反省と心からのおわび』を表明しました」と過去形で語るだけでいい。
その場合、それに続けて、
「2015年、安倍内閣は『戦後70年談話』で近隣諸国と未来志向の関係を築く方針を表明しました。岸田内閣としては、この談話を継承し、韓国との友好関係を発展させていきたい」
と言えばいいだろう。
「村山談話」に言及する必要は一切ない。「安倍談話」には村山談話の継承も盛り込まれているから、「安倍談話」の継承だけ打ち出しておけばいいのだ。そうすることによって村山談話の効力を薄めることができる。
7,日本を「永遠に謝罪し続ける国」にしておくための「村山談話」
継承するのは「安倍談話」だけでいい。安倍元首相が謝罪外交と訣別するために残してくれた貴重な遺産を継承せずに、日本を「永遠に謝罪し続ける国」にしておくために出された「村山談話」を継承するなど愚の骨頂である。
産経新聞が、
日本側は過去に表明した「痛切な反省と心からのおわび」を含む談話を継承する方針だが、解決策に合わせて謝罪姿勢を示せば、韓国の最高裁判決を認めたように映りかねない。政府内からは「既に終わった問題に妥協して謝罪したように受け止められれば、政権にとって大きなマイナスだ」と懸念する声が出ている。
と書いているが、全く同感だ。
また、西岡力氏もかねて警鐘をならしていた。
1980年代以降、(日本政府は)道義的な謝罪と人道的立場からの支援を繰り返し行った。ところがそれは逆効果を生み、謝罪したのになぜ法的責任を認めないのかという反発が起き続けた。(中略)
第2に謝罪について、当該企業は合法的な雇用を行っただけだから(日本政府は)道義的観点からでも謝ってはならない。
岸田首相は「日韓共同宣言」や「村山談話」の継承を打ち出すことで、直接的な謝罪は避けられると考えているのかもしれないが、この2つを特別扱いして継承すると宣言すれば、事実上、謝罪を繰り返したのと同じである。
「旧朝鮮半島出身労働者」の問題でも日本は謝罪した―。韓国の国民やマスコミはそう受け取るだろう。これでは謝罪外交との訣別など夢のまた夢だ。
8,追記:「歴代内閣の談話を全体的に引き継ぐ」とだけ言うならセーフだが…
6日のニュースでは、岸田内閣は「歴代内閣の談話を全体的に引き継ぐ」としか言っておらず、とりあえず安堵した。
小渕・金大中「日韓共同宣言」や「村山談話」をことさら強調する必要はなく、「痛切な反省とおわび」を繰り返す必要もない。
私が見た記事は、韓国政府側の意を受けたものだったのだろう。韓国は「村山談話」を日韓の歴史認識問題の基本に据えたがっている。その手に乗ってはならない。
日本はむしろ、最新談話の「安倍談話(戦後70年談話)」を基本に据えるべきだ。謝罪外交との訣別と未来志向を謳ったこの談話こそ、日本にとって最重要な談話だ。閣議決定も経ている。
日本は韓国に対して、もう反省もおわびも表明する必要はない。謝罪外交は安倍元首相が終わらせてくれた。韓国が謝罪を求めてきたら、「謝罪なら終わってます」とはっきり言うべきだ。
本来、謝罪は何度もするものではない。一度すればおしまい。何度も「謝れ」と言う方が異常である。
佐藤(正久)氏は過去の政権が表明した「反省とおわび」を「日韓関係の文脈で、今この時点で読み上げるのは絶対にしてはいけない」と指摘した。
そう。この態度が正しい。佐藤正久氏の認識を絶対的に支持する!