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櫻井義秀氏が『統一教会―日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会)で調査対象者の「監禁を伴う強制的な脱会説得」を隠蔽。魚谷俊輔氏の批判的検証・連載52~54を読む①

1,魚谷俊輔氏の「書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』」全207回から連載52~54を紹介してくれた統一教会2世のRさん

4月4日の拙ブログにコメントを書いてくれた統一教会2世のRさんが、魚谷俊輔氏の全207回にもわたる長大な連載「書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』」から連載52~54を抜き出してくれた。

魚谷俊輔氏個人ブログのトップページより

書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』53 | 「洗脳」「マインドコントロール」の虚構を暴く

書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』54 | 「洗脳」「マインドコントロール」の虚構を暴く

書評対象の本は最近、中公新書から出た『統一教会』ではなく、2010年に北海道大学出版会が刊行した『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』である。

「韓日祝福」は耳慣れない言葉だが、日本人と韓国人のカップルが参加した統一教会の合同結婚式のこと。特に1988年の合同結婚式を指すことが多いようだ。

この本は600ページを超える大著で、値段も6,000円近い(改訂価格)。

『情況』23年2月号掲載の論文「統一教会と現代日本の政教関係―公共空間を脅かす政教のもたれ合いと宗教右派」で、宗教社会学者の島薗進氏はこの本を高く評価して、

「学術的な研究としては櫻井義秀・中西尋子『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)がもっとも整っています」

と書いている。

現役の統一教会信者でUPF事務総長の魚谷俊輔氏は、同書には批判的だ。だからこそ207回もの長期連載で書評を続けてきたのだろう。

しかし、これだけ長いとそう簡単には読めない。Rさんは半分程度読んだそうで、連載52~54は櫻井義秀氏が旧統一教会を調査・研究する際に依拠した情報源について論じた箇所である。

この3回分で魚谷氏は、櫻井義秀氏が「統一教会信者の入信・回心・脱会のパターン」を書くにあたり、自らの情報源について真実を隠蔽していることを明らかにした。

一通りじっくり読んだ結果、魚谷氏の結論は十分納得できるものだった。

この連載52~54は、『間違いだらけの「マインド・コントロール」論』(賢仁舎)と密接な関連があり、中でも同書第3章の「『青春を返せ』裁判と拉致監禁・強制改宗の関係」とは内容が一部重複している。

同書を読んだ人は、連載52~54を読めばより理解が深まり、櫻井義秀氏ら反統一教会勢力の欺瞞性をハッキリ知ることができる。逆もまた然り。

2,櫻井氏は調査対象者66名にディプログラミング等外部からの介入による強制的脱会者はいないと言うが、それは本当なのか?

結論をもう少し具体的に書いておこう。

櫻井氏は「②ⅱ)ディプログラミング等外部からの介入行為により強制的に脱会させられたもの」(p.198*1)は「本調査の主たる対象者」ではないとしているが、魚谷氏の分析により、調査対象者の中で民事裁判の原告となった53名のうち、少なくとも5名が、「監禁」を伴う脱会説得によって統一教会を脱会したと認めていることが明らかになったのである。

「監禁」を伴う脱会説得とは、ディプログラミングのこと。

櫻井氏は「ディプログラミング等外部からの介入行為により強制的に脱会させられたもの」については、

「隔離された体験において精神的に傷つき、その後ひっそりと生活をされている方も多いので、実際にアクセスすることは容易ではない。むしろ、ブログ等で統一教会の経験を語るこうした人達の語りを参照する程度にとどめた方がよいと思われる」

として、調査対象者に含めていないと書いている。

櫻井氏の調査対象者は民事訴訟で統一教会を訴えた横浜地裁、札幌地裁、東京地裁などの原告53名と聞き取りのみの13名、合計66名だ。

櫻井氏の言う「ブログ等で統一教会の経験を語るこうした人達の語りを参照する」という方法は、「聞き取り」の定義になじまないので、この人たちは「聞き取りのみの13名」の中には入っていないはずだ。当然、訴訟の原告として表舞台に出てくることもない。

したがって、櫻井氏が参照したらしい「統一教会の経験を語る」ブログ等の関係者は66名の中に入っていないと考えられる。

ここから分かることは次の通り。

櫻井氏の書くところによれば、自身の調査対象者の類型は、

  • ①ⅰ)自然脱会者
  • ①ⅱ)脱会カウンセリングを受けた脱会者
  • ②ⅰ)教団により強制的にやめさせられた者
  • ②ⅱ)ディプログラミング等外部からの介入行為により強制的に脱会させられた者

の4つに分かれ、メインは「①ⅱ)脱会カウンセリングを受けた脱会者」である。

「②ⅱ)ディプログラミング等外部からの介入行為により強制的に脱会させられた者」は、ブログ等における語りを参照するにとどめたため、66名には入れていない。

なお、櫻井氏の分類では、①は自発的脱会者、②は強制的脱会者である。よって、櫻井氏の調査の主たる対象者は「自発的な脱会者で、かつ、脱会カウンセリングを受けた者」ということになる。

さて、ここからが本題だ。

魚谷氏は、調査対象者に関する櫻井氏の説明を、額面通りに受け取ってよいのか疑問を持った。

調査対象者66名の中に「②ⅱ)ディプログラミング等外部からの介入行為により強制的に脱会させられたもの」はいないと櫻井氏は言うが、それは本当なんだろうか、というのが魚谷氏の問題意識である。

3,櫻井氏の調査対象者66名のうち15名は札幌地裁の原告。その裁判資料から14名を特定した

櫻井氏の調査対象者は櫻井・中西著p.204に表6-1として内訳が示されている。その表は以下の通り。

魚谷俊輔連載52より。元の表は櫻井・中西著『統一教会』p.204の表6-1「調査対象者」

魚谷氏がこの表で注目したのは札幌地裁である。民事訴訟で統一教会を訴えた札幌地裁の原告から15名が櫻井氏の調査対象者に選ばれたわけだが、櫻井氏は巻末資料に「『脱会信者』被調査信者概要」という表を収録し、

その冒頭に札幌地裁の原告15名の生年、青年/壮婦の区分、家族背景、学歴等、伝道開始年、職歴、入信年、脱会年、祝福などのデータを掲載(連載52

した。

その表は連載53にも引用されている。櫻井氏がこのような表を巻末に収めたのは、学者としては良心的な態度だと言える。他の研究者は、この表によって櫻井氏の主張を検証することができるからだ。

但し、この種の検証は簡単ではない。検証を行うには、それぞれの裁判についての裁判資料を持っていなくてはならない。この表に書かれたことが事実かどうかは、裁判資料を見なくては確認することができないのだ。

もっと言えば、この表に出てこない事実があるかもしれない。櫻井氏にとって不都合な事実が伏せられ、隠されている可能性もある。そういうものを見抜くには、やはり裁判資料を手元に揃える必要がある。

そこまでやらなければ櫻井氏の研究を正しく評価することはできないはずだ。

では、

「学術的な研究としては櫻井義秀・中西尋子『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)がもっとも整っています」

と書いた島薗進東大名誉教授は、そういう検証をちゃんとやったのだろうか?

おそらくやっていないだろう。やっていたら、「学術的な研究としては……もっとも整っています」などとは口が裂けても言えないはずだ。

4,櫻井氏の調査対象となった札幌地裁の原告15名のうち、少なくとも5名は「監禁」を認め、7名は「鍵がかけられ出入りが自由でなかった」と認め、2名は「軟禁状態」を認めた

魚谷氏は幸い、札幌地裁の裁判資料を持っていた。彼はこう書いている。

櫻井氏は、自身の研究の情報源となっている統一教会元信者について、「自発的脱会者」の中の「脱会カウンセリングを受けた脱会者」だと言っており、ディプログラミング等の外部からの介入による強制的脱会をさせられた者は含まれていないとしている。

しかし、櫻井氏の調査対象には札幌における「青春を返せ」裁判の原告たちが含まれており、その裁判資料は筆者も持っているため、巻末資料「2『脱会信者』被調査信者概要」と照合することによって、これらの原告の個人名を特定したところ、そのうちの5名は証言の中で自身が監禁されていることを認めていることが明らかになった。

残りの10名のうち、7名は「監禁」という表現は認めていないが、鍵がかけられており、出入りが自由でなかったことを認めている。そして2人は軟禁状態であったことを認めている。出入りの制限はなかったと証言している者は1人もいない。

そして15名中1名だけが、櫻井氏の表の情報からは個人名を特定できなかった。下記の表(注・連載53引用)の14番だが、脱会年が1997年と遅いことから、第二次札幌青春を返せ裁判の原告なのかもしれない。(連載53)

魚谷氏はなぜ札幌地裁の原告の中に、

  • 監禁を認めている者が5名
  • 鍵がかけられており、出入りが自由でなかったと認めている者が7名
  • 軟禁状態であったことを認めている者が2名

いると分かったのだろうか。

それは裁判資料には、原告の証言や陳述書などが含まれているからである。

筆者はこのブログの「『青春を返せ』裁判と日本における強制改宗の関係について」というシリーズの中で、「青春を返せ」裁判の原告たちは強制改宗あるいはディプログラミングによって生み出された「作られた被害者たち」であると主張し、それを原告らが法廷でなした証言や陳述書から立証したことがある。

その際に用いたのが、札幌での「青春を返せ」裁判の資料であった。この裁判の原告は21名であるが、そのうちの15名が櫻井氏の研究対象となったことになる。(連載52)

魚谷氏が立証した研究は、大幅に加筆修正が施されて『間違いだらけの「マインド・コントロール」論』の第3章に収録されている。

「札幌地裁における審理は1987年3月から2001年6月まで14年3カ月という長期間にわたる裁判であった。原告は最終的には21名となり、全員が女性である。結果は、2001年に一審判決で原告の元信者らが勝訴し、…」(前掲書p.88)

これが魚谷氏による札幌地裁の説明だが、ディプログラミングとの関係について調べた結果は、次のようにグラフ化された。(前掲書p.89)

5,最低でも5名が監禁を伴う強制的な脱会説得を受けた。他の9名は自由を奪われたか、制限された環境下で強制的な脱会説得を受けた可能性がある

魚谷氏によれば、原告21名中15名が櫻井氏の調査対象者であり、そのうち5名が「監禁」を認め、7名が「監禁」という表現は認めていないが、鍵がかけられており、出入りが自由でなかったことを認め、2名が軟禁状態だったことを認めた。

これは、最低でも5名が監禁を伴う強制的な脱会説得を受けたということであり、他の9名は自由を奪われたか、あるいは制限された環境下で強制的な脱会説得を受けた可能性がある、ということである。

当たり前だが、本人の自発的な意志に基づく話し合いならば、監禁も部屋に鍵をかけることも軟禁も必要ない。ここに示した14名が櫻井氏の言う「自発的脱会者」に分類できないことは明らかだ。

自発的な話し合いにおいては、本人の気持ち一つでいつでも話し合いを打ち切ることができる。それができない、つまり話し合いの打ち切りを許さないからこそ「監禁」「部屋に鍵をかけること」「軟禁」が必要になるのである。(②につづく

*1:拙ブログではこれまで「拉致監禁による強制棄教」とか「拉致監禁による強制改宗」などと表現してきた。