- 1,島田裕巳氏が指摘。オウム真理教は解散で債務超過となり破産した
- 2,島田氏は全国弁連の言う「潜在的な被害総額1200億円」を否定し、「過去35年の被害総額1237億円」も却下した
- 3,全国弁連が主張する自称被害総額は109人、約35億円
- 4,島田氏の正しい主張。「被害額は最大100億円の供託金で十分まかなえる。財産保全の必要なし」
- 5,最後の最後でズッコケた。解散命令が出ても教団の財産は保全される? そんなことあり得ない
※最初にアップした後、少々分かりにくい表現に手を入れた。特に見出し2と3の箇所。
1,島田裕巳氏が指摘。オウム真理教は解散で債務超過となり破産した
全国弁連の主張を全面否定するものではなく、彼らの言うことがもしかしたら正しいのかもしれないが、と一応、保険をかけているが、事実上、全国弁連への厳しい批判と言っていい。
宗教学者島田裕巳氏が「現代ビジネス」(ウェブ)に11月17日付けで発表した論考、「支持率回復にも繋がらない岸田首相のちぐはぐな旧統一教会解散請求~巨額献金の背景こそが本当の闇なのだが」がそれである。
島田裕巳氏はまず、
一つ、十分に認識されていないのが、解散命令が出てからのことである。
一般には、解散命令が出て、旧統一教会が宗教法人格を失っても、宗教活動はそのまま続けられると報じられている。
だが、解散となれば、清算人が指定され、清算の作業が行われる。それも通常、宗教法人が解散になるのは、債務超過に陥り、破産状態におかれるからだ。オウム真理教の場合も、さまざまな事件を起こしたことで、賠償金が膨大なものになり破産した。
と述べ、「解散命令が出ても宗教活動はそのまま」という全国弁連やマスコミの流す“謀略情報”に疑問を呈した。
島田氏は「解散となれば、清算の作業が行われる」として、オウム真理教は債務超過に陥り、破産したと書く。
では、統一教会はどうなるのだろうかというのが島田氏の問題提起である。
2,島田氏は全国弁連の言う「潜在的な被害総額1200億円」を否定し、「過去35年の被害総額1237億円」も却下した
ここからが重要だ。
では、旧統一教会の場合に、その点はどうなるのだろうか。
実はそこがよく分からない。
全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、旧統一教会による潜在的な被害総額は1200億円に達すると推計している。これは、全国弁連が昨年に示した数字がもとになっているらしい。
同弁連に1987年から2021年までに寄せられた相談件数は2万8236件で、総額は約1181億円にのぼるというのだ。これに、消費者センターに寄せられたものを加えると、被害額は1237億円にのぼるという(『しんぶん赤旗』2022年7月22日)。
しかし、同じ弁連が、旧統一教会によるコンプライアンス宣言以降、献金被害があったとする元信者は140名で、被害総額は19億円超にとどまる。
そのなかには、すでに返金されたものもある(『読売新聞』2023年9月30日)というから、これから旧統一教会が支払わなければならない金額は、到底1200億円まではふくらまないのではないだろうか。
実に的確な指摘ではないだろうか。
特に全国弁連を批判するような調子はないが、言っていることは全国弁連批判そのものである。
まず「潜在的な被害総額1200億円」について、「到底1200億円まではふくらまない」としてバッサリ切り捨てた。
「過去35年の被害総額1237億円」についても、
しかし、同じ弁連が、旧統一教会によるコンプライアンス宣言以降、献金被害があったとする元信者は140名で、被害総額は19億円超にとどまる。
と書き、「1237億円の被害」に直接触れるのを避けて、「元信者は140名で、被害総額は19億円超」という別の数字を持ち出した。
これは、島田氏が「1237億円の被害」は清算済み(=救済は終わっている)と見ていることを意味する。だからこそ島田氏は「被害総額は19億円超にとどまる」と書いたのだろう。
この辺の書きっぷりはお見事。
全国弁連に喧嘩をふっかけるような書き方を慎重に避けている。
3,全国弁連が主張する自称被害総額は109人、約35億円
いま統一教会が負っている被害債務(あくまで申立人の自称)はどのくらいかというと、島田氏は全国弁連の主張を引いて、「元信者140名、被害総額は19億円超にとどまる」と書いた。
この19億円超という数字は、全国弁連が9月30日に発表した声明に出てくる。
そこにこうある。
当連絡会や、全国の約350名の弁護士で構成される「全国統一教会被害対策弁護団」(全国弁護団)所属の弁護士が交渉・訴訟事件として実際に「受任」した(単なる「相談」は含まない。)、「コンプライアンス宣言」以後の被害は、現時点で判明しているだけでも140件・19億5092万4233円という巨額かつ深刻なものである。
この数字は、島田氏も書いているように、「2009年のコンプライアンス(法令遵守)宣言以後の被害」と称するものを全国弁連が集計した金額である。
統一教会が一貫して「コンプライアンス宣言後、トラブルは激減した」と主張しているので、それを否定するために全国弁連が強調している数字だ。
だが、当然のことながら、コンプライアンス宣言の前と後を含めた全体の自称被害額はもっと大きくなる。
全国弁連(とそのフロント団体の被害対策弁護団)が主張する現時点での自称被害総額は「元信者ら109人、約35億円」である。*1
これを彼らは訴訟ではなく教団との話し合いで取り戻そうとして、教団に集団交渉を要求してきた。
だが、統一教会は集団交渉を拒否して個別交渉を提案し、対策弁護団がこれに応じないため、目下調停が行われているようだ。
この辺りは中山達樹弁護士の一連のブログに詳しい。blog.goo.ne.jp
ここまでをまとめると、島田氏の言う「元信者140名、被害総額は19億円超」は、正確には「140件、被害総額19億円超」の誤りである。
そして、現時点で全国弁連が申し立てている自称被害の全体は、「元信者ら109人、約35億円」(8月3日付け統一教会のプレスリリース)である。
「140件、19億円超」は2009年コンプライアンス宣言後に限った件数、金額なので、「元信者ら109人、約35億円」の中に含まれていると見てよい。
後者の金額(約35億円)は、コンプライアンス宣言後の自称被害額(19億円超)に、それ以前の自称被害額を加えたものであり、それだけ金額は大きくなる。
ということで、現時点の自称被害総額は約35億円と書くのが正しい。*2
もっとも、島田氏の論考にある「19億円超」を「約35億円」に改めても論旨に影響はない。1237億円という超巨額の数字に比べれば、19億円と35億円の違いは取るに足りないからだ。
どちらにせよ、大した被害額ではないのである。(19億円も35億円も、どちらも時効分を含み、何倍にも盛った金額だと考えられる)
マスコミや世間は「過去35年の被害総額1237億円」を頭から信じており、中には未清算、未救済のまま放置されていると誤解している人もいてタチが悪い。*3
島田裕巳氏は、さすがにそこは冷静に見ている。
4,島田氏の正しい主張。「被害額は最大100億円の供託金で十分まかなえる。財産保全の必要なし」
さて、島田氏は、全国弁連の言う「潜在的な被害総額1200億円」を批判して、たたみかけるように次のように書いた。
解散命令になれば、退会者が続出し、そうした人間たちが献金の返還を求めるようになるはずだという指摘もある。だが、これはあくまで仮定の話で、そうなる保証はどこにもない。
盛山文部科学大臣は、解散請求を行うにあたって記者会見し、旧統一教会が民事訴訟で敗れた際の賠償総額は約22億円で、和解や示談などを含めると、解決金などの総額は約204億円にのぼると発表した。
これは、すでに支払われているはずで、現在教団の負債になっているわけではない。
そうであれば、解散命令が出ても、旧統一教会は債務超過には陥らない。これから返金の要請がなされたとしても、11月7日に教団の会長が記者会見をしたときに示した60億円から100億円の供託金で十分にまかなえるように思われる。
全くその通りである。
全国弁連の言う「潜在的な被害総額1200億円」は誇大妄想の産物に過ぎない。
統一教会が解散、もしくは解散が濃厚になったときに、現役信者がことごとく被害者に変身し、返金請求を申し立てるという、あり得ない推論に基づくものだ。
この理屈を、島田氏は「あくまで仮定の話で、そうなる保証はどこにもない」と却下してみせた。
また、文科省が公表した「賠償総額」と「解決金総額」はもちろん清算済みであるから、「現在教団の負債になっているわけではない」という島田氏の指摘も全くその通りだ。
と、こう見てくれば、自動的に正しい結論が導かれる。
すなわち、
これから返金の要請がなされたとしても、11月7日に教団の会長が記者会見をしたときに示した60億円から100億円の供託金で十分にまかなえる。
これが島田裕巳氏の結論であり、それは統一教会トップが記者会見で国民に示した結論と同一のものだ。
全国弁連の虚偽主張を鵜呑みにしたマスコミ、ジャーナリスト、宗教(社会)学者、識者らが跋扈(ばっこ)する中で、島田裕巳氏が理性的に考え、分析して、正しい結論に到達したことを高く評価したい。
5,最後の最後でズッコケた。解散命令が出ても教団の財産は保全される? そんなことあり得ない
ところがである。最後の最後でずっこけてしまった。
せっかく正しい結論にたどり着いたのに、島田氏は上記引用に続けてこう書くのだ。
となれば、教団の財産は、所有する土地を含め、清算されず、保全される。その点では、解散命令が出ても、宗教活動は十分に継続できることになる。
そりゃないでしょう、島田先生!
解散命令が出たら、教団の財産、つまり法人名義の財産は全て放棄させられるんですよ。
解散となれば、清算人はもう事実関係などお構いなしに、たとえ時効になった分でも、自称被害者にばんばんお金を返金するだろうから、それだけでかなりの法人財産が消えることになる。
残った財産が、どこか名乗りを上げた他の宗教法人か公益法人、もしくは超大金持ちの篤志家信者などに引き取られ、それでも余りが出たら国庫に入る、というのが宗教法人法の定めである。
「解散命令が出ても、(教団の財産は保全されるから)宗教活動は十分に継続できる」という島田裕巳氏の主張は、島田氏ほどの宗教学者にしてこの程度の認識なのかと、ガックリさせられるものだ。
宗教法人法の条文をちゃんと読んだのかと言いたくなる。
「60億円から100億円の供託金」は、解散命令請求の裁判中に財産の保全をしなくても、被害者救済のお金はちゃんとあると言うために教団が提示したもので、解散命令が出てしまえば全く意味をなさない。
島田氏はなんでこんなことを書いたのだろう? ナゾとしか言いようがない。
さらに、冒頭に書いたように島田氏は、
ただ、潜在的な被害総額の問題があり、解散命令が下された時点で実際にどのような事態が生まれるかは、今のところ未知数である。
と全国弁連側に保険をかけてもいる。
ここは中立的な宗教学者という立場上、そう書かざるを得ないのだろう。
以上。今回は島田氏の論考の「被害金額」に関する箇所だけを取り上げた。