- 宗教に起因する児童虐待47件は多いのか少ないのか?
- 全国の児童相談所のうち虐待事例があるのは16%のみ。84%の児相が事例無し!
- 「親族からの虐待経験89%」(共同通信調査)のデッチ上げを立証する結果に
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公開した調査報告書
宗教に起因する児童虐待47件は多いのか少ないのか?
宗教2世の児童虐待疑いについて、こども家庭庁が民間委託して行い、去る4月26日に同庁が公表した調査結果がある。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが「令和5年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業費補助金」を得て実施した。
「保護者による宗教の信仰等に起因する児童虐待に関する調査研究報告書」がそれで、以下は時事通信の報道。
それによると、全国の児童相談所(児相)が宗教2世への虐待を47件把握していたという。
この47件は極めて少ない数字なのだが、時事はその点を見事にぼかしている。
見出しを見た人は47件が多いのか少ないのか判断がつかないはずだ。だが、グラフ付きの目立つ記事だから、一般読者は「宗教2世への虐待が結構あるんだな」という印象を持つに違いない。
ところが、この47件は「令和4年4⽉から令和5年9⽉まで」を対象とした数字である。なぜか年間の数値ではなく、1年半という長めの期間が設定されている。
調査期間を長くとれば、件数が増えるのは当たり前だ。結果を公表したとき、少しでもインパクトが大きくなるように意図的にそうしたものと思われる。
全国の児童相談所のうち虐待事例があるのは16%のみ。84%の児相が事例無し!
作為的な匂いがプンプンするけれども、47件が少ないと言えるのは、記事をきちんと読めば明らかだ。
児相への調査では、全国232カ所のうち、229カ所から回答を得た。2022年4月~23年9月の期間で、信仰などが理由とみられる虐待事例の有無を聞いたところ、虐待を把握していると答えた施設は37カ所(16.2%)に上った。
何のことはない、全国229カ所のうち虐待を把握した児相はわずか16.2%、37カ所だけである。
時事は「37カ所(16.2%)に上った」と書くが、「37カ所(16.2%)にとどまった」と書くのが正しい。
約84%にも上る圧倒的多数の児童相談所は、宗教に起因する児童虐待をただの1件も把握していないのである(「分からない」「無回答」含む)。
この調査結果を、共同通信が7月に報じた「親族からの虐待経験89%」と比較すれば、2つの数値のあまりの落差に啞然とさせられる。
共同通信の調査は、エホバの証人、創価学会、旧統一教会、オウム真理教などが対象だった。
考えてみよ、創価学会は日本全国に根を張った信者数何百万という巨大教団だ。
エホバの証人は信者数20万人以上で、日本最大のプロテスタント教団、日本基督教団の約16万人よりも多い。こちらも日本全国で活動している。
旧統一教会もまた、信者数は7万~10万人程度と少ないが、全国各地に支部教会を持っている。
もしこれらの新興宗教で児童虐待が横行していたら、日本中の児相が虐待を把握していなければおかしい。
しかし、こども家庭庁が委託した調査は、それとは真逆の結果を出したのである。
「親族からの虐待経験89%」(共同通信調査)のデッチ上げを立証する結果に
調査主体は「約84%の児相が宗教に起因する児童虐待を把握」という結果を期待したのだろうが、実際にはたったの約16%にとどまった。
47件もこの16%・37カ所の児相で確認された事例である。しかも、うち3分の2の施設(25カ所)は1件しか把握していない。1年半でたったの1件だ。
児童虐待が年々、右肩上がりで増え、人手が足りなくて困っている各地の児童相談所において、宗教に起因する児童虐待は1施設当たり1年半に1件、多くても3件しかない。
児童虐待全体の件数から見れば、ほとんど問題にならない数字ではないか。
いや、もちろん児童虐待はあってはならないが、宗教に起因するそれは大げさに騒ぎ立てるようなレベルではないし、社会問題と言えるような数字でもない。
果たして報道価値があるのかすら疑われるレベルである。もし報道するなら、はっきりと「想定よりはるかに少なかった」と書くのがマスコミの良心だろう。
それをしない時事通信には宗教への悪感情と差別意識、宗教ヘイトがあると言わざるをえない。
さらに言えば、調査報告書を読んでみると、ここで言う「宗教に起因する児童虐待」とは、22年7月の安倍元首相暗殺事件以来、旧統一教会への批判が高まり、厚生労働省が「宗教に起因する児童虐待」の定義を大幅に拡充し、従来虐待とは見なされなかったものまで虐待の範疇に入れた、新しい定義に基づくものだ。
- 「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」(2022年12月27日、厚生労働省子ども家庭局長通知)
児童虐待の定義が著しく拡張されたというのに、それでも全国16%の児相でしか把握されなかったのである。
こう見ると、去る7月に共同通信が報じた「親族からの虐待経験89%」という記事は一体何だったのだろうか?
ここからは自分の推測だが、4月公表の児相における虐待把握件数があまりにも少なかったので、「なんだ少ないじゃないか」と真相を見抜いた読者もいるはず。共同通信としては、その印象を一変させようと、急きょ調査の名にも値しないインチキ調査を行ったのだろう。*1
だが、かえって共同の記事がフェイクにすぎないことを浮き彫りにする結果になった。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公開した調査報告書
こども家庭庁の委託による調査報告書は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのウェブで読める。
- 「保護者による宗教の信仰等に起因する 児童虐待に関する調査研究報告書」(2024年6月14日一部修正:PDF)
時事通信は、グラフを載せるなら以下の「該当事例あり16.2%」のデータを使うべきだった。
ちなみに、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した調査の検討委員には、反統一教会の怨念に凝り固まった全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の阿部克臣弁護士、似非科学のマインドコントロール論を信仰する西田公昭・立正大学大学院教授が名を連ねている。
なお、厚生労働省が定義を拡大した「宗教に起因する児童虐待」の中身は、宗教への偏見に満ち満ちている。
世界人権宣言や自由権規約(B規約)に抵触し、わが国の教育基本法第15条を真っ向から否定するものだ。
- 世界人権宣言:「親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する」と規定
- 自由権規約(B規約):「父母の宗教的教育を確保する自由の尊重」を謳う
- 教育基本法第15条:「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない」
これについては日を改めて検討したい。
*1:実際、共同通信の調査は5月~6月にかけて実施された。