石破茂総理の所信表明演説は腰砕けになったようだ。自説のほとんどを引っ込め、新鮮味に乏しいという評価が多い。
非現実的でいたずらに仮想敵を刺激する「アジア版NATO」創設や日米関係に軋轢を起こす日米地位協定の改定を盛り込まなかったのは正しい選択だ。
アジア版NATOは、そもそも憲法を改正して集団的自衛権のフル行使ができるようにしなければ実現できないし、仮想敵である中国やロシア、北朝鮮を刺激することは間違いない。
安倍首相が米豪印の理解を得て構築したクアッドや「自由で開かれたインド太平洋」構想は、潜在的に中国封じ込めの意図があるし、ロシアの牽制、北朝鮮の暴発抑止の意図もある。
けれども、あからさまに敵を敵として名指ししない、いたずらに緊張を高めない枠組みだ。
しかし、アジア版NATOという言葉を使えば、現に存在するNATOが対ロシア(旧ソ連)の集団防衛機構であることから、敵は「中国、ロシア、北朝鮮」ということになって、あからさまに地域の緊張を高めることになるだろう。
日本にとって中国は国防上の脅威ではあるけれども、経済的な結び付きは深く、一概に敵とみなすわけにいかない難しい相手だ。
慎重に付き合っていかなければならないのに、独自にNATOを作るなど余りにも飛躍した話だと思う。
日米地位協定の改定に触れなかったのも正しい。
まだ次のアメリカ大統領がトランプ氏になる可能性は消えていない。もし万が一トランプ氏が大統領になったら、日本側の日米地位協定改定の要求を逆手にとって、どんな無理難題を押し付けてくるかわかったものではない。
今、この時期に言うようなことではない。
しかし、自説のほとんどを引っ込めてしまった石破茂氏は、一体何がしたくて自民総裁選に立候補したのだろうか?
党内の反対や非現実的だという批判から、自説を引っ込めざるを得なかったのだと思う。
結局のところ、石破茂という政治家は、安倍首相にケチをつけたり、野党やマスコミと一緒になって足を引っ張ったりすることはできても、安倍首相に代わるような内政・外交の現実的なプランを提示する能力はなかったということだ。
石破首相が、選択的夫婦別姓制導入について、党内外で大議論を巻き起こした上で実現に向けて努力したい、みたいなことを言ったら厄介だなと思っていたが、それもなかった。
おそらく石破氏には、反対する保守派を説得できるという自信がないにちがいない。その点はホッとしたが、それなら総裁選で「導入する。やる」なんて言わなければよかったのだ。
いくつか動画解説を見てみた。以下は印象に残ったもの。
だいたいの方向性は同じだが、三者三様、微妙に評価が違って面白い。