BSフジプライムニュースの11月21日放送を見た。この日は「埋まるのか与野党の溝 被害者救済法案の行方 自民×立憲×弁護士ほか」と題し、出演は、
- 宮﨑政久 自由民主党法務部会長
- 長妻昭 立憲民主党政調会長
- 紀藤正樹 弁護士
の3氏だった。
新美有加キャスターが3点ある「被害者救済に向けた法整備のポイント」のうち、「悪質な寄付勧誘の禁止行為」から説明を始めた。
これに対し内容が不十分だとして立憲民主党・長妻昭氏が持論を述べ始めたが、その説明は驚くべきもので、絶句するしかなかった。
以下、該当箇所の書き起こし。
新美有加 被害者救済法ではこのように明記されています。
まず1つ目、退去を求めたのに退去しない不退去。退去したいのにさせない退去妨害。勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行すること。
威迫する、人を脅して従わせるような言動を交えて相談の連絡を妨害すること。また好意に乗じて関係の破綻を告知して勧誘すること。
また霊感などによる知見を用いた告知。霊感などによって見えること、知ることを用いた告知、であると規定しています。
新美有加 禁止行為にこれらを挙げているわけなんですけれども、長妻さん、この定義で十分だとお考えでしょうか。
長妻昭 これまずですね。そもそもとして、統一教会に使える法律じゃないとダメですよね。当たり前ですけども、その視点から見ると、残念ながらほぼ使えないんですよ。
なぜかと言うと、法律の構成として政府案は、今おっしゃっていただいたような禁止行為、今縷々読み上げていただいた禁止行為の中にも、実は禁止行為だけじゃなくて、禁止行為によってその方が困惑しないといけないんですね。
困惑して初めて、困惑した上で寄付をした場合、それが取消しできるという、そういう構成なんですよ。
つまり、禁止行為があります。それによってその方が困惑します。そして困惑した上でその寄付をすると、こういうことなんで。
統一教会の場合は、ご存じのように、困惑してない場合が多いんですね。つまり1回ある行為をされちゃうと、その方はある意味、進んで寄付をすると。
別にアクションがなくても、10年にわたってすさまじい寄付をして2億円ぐらい取られた方もいますけど、そういう、ある意味では進んで、喜んでする寄付については、これ規制できないと。これが最大の欠陥なんで、ここを正していただきたいと。
私たちも別に、自分たちも法律案出してますけど、それにも1字1句こだわるわけじゃないんで、使える法律を作ってほしいというのが大きいところですね。
これにはたまげた。長妻さん、完全に紀藤正樹弁護士や「脱会屋」宮村峻(たかし)氏ら反統一教会勢力、被害を訴えている元信者、あるいはマインドコントロール論信奉者の主張を鵜呑みにしている。
「ある行為をされちゃうと」の箇所が、要するにマインドコントロールなのだが、「ある行為をされちゃったのは長妻さんじゃないの?」と揶揄したくなるほど、実に素直に彼らの言い分を代弁していた。
ひとたびマインドコントロールされると、その人は自由意志も自己決定力も失い、その後は教団の言うがままに動かされ、自ら進んで、喜んで献金するようになると言うのだ。
マインドコントロール下にあって、自ら進んで、喜んで献金している人は、困惑していない。これでは献金したお金を取り戻せないではないか、というのが長妻氏の主張である。
長妻氏はさも当たり前のことのように話していたが、全然当たり前ではない。全く根拠のない主張である。
世論の反統一教会感情や「あの連中はマインドコントロールされてるに決まっている」という俗説に長妻氏自身が影響されているせいか、およそ非現実的で突拍子もない主張を、「まともな考え」であるかのように吹聴している。
長妻氏の考え方のどこがおかしいのだろうか?
まず次の点をはっきりさせておきたい。
旧統一教会をめぐる民事訴訟で、物品を買ったにしろ献金をしたにしろ、「原告がマインドコントロールされていた」と認定した判決は一つもない。
もちろん、販売側や勧誘側がいたずらに不安を煽り、恐怖感を抱かせ、社会的通念を逸脱した高価な物品を買わせたり、その人の所得や資産保有状況から見て不当に高額な献金をさせたりした、だから違法であり、返金を命じる、という判決はいくつも出ている。
しかし、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が公開している民事裁判リストを調べても、「マインドコントロールされた結果、原告は自由意志も自己決定権も奪われていた。だから違法であり、返金を命じる」という判決は1つも見つからない。
「マインドコントロール下にあって壺や大理石を買わされた」「同様の状況下で献金させられた」というのは、全国弁連や元信者たち、マインドコントロール論の信奉者たちが言っていることにすぎず、日本の法廷では採用されていないのだ。
はっきり言って、当事者の一方が主張している、ただの仮説にすぎない。
統一教会側はマインドコントロールを否定しており、ジャーナリストや宗教社会学者の中にも批判する人がいる。海外に目を向ければ、マインドコントロール理論は少数説である。
この状況で、当事者の一方の言い分だけを鵜呑みにして、「旧統一教会の信者はマインドコントロールされている」と主張するばかりか、それを前提とした法律を作れとは、厚顔無恥にもほどがある。
「旧統一教会の信者はマインドコントロールされている」と主張するのなら、その真実性を示す実証的、科学的根拠を提示してもらいたい。
「世間のみんなが言ってるから」「紀藤弁護士が『マインド・コントロール』という本を書いているから」なんていう、子どもじみた理由を挙げるのはやめて、しっかりとした学術的な論拠を示すべきだ。
そうでなければ、こんな断定は統一教会信者に対する侮辱であり、差別であり、人権侵害ではないか。
信者の立場に立って考えてみよう。
長妻氏の説明は、自らの意志であえて評判の悪い宗教団体の信者になることを選んだのに、
「あなたはマインドコントロールされて教団の操り人形にされた可哀想な被害者なんですよ」
と言っているのと同じである。
信者となり、自分の意志で喜んで献金したとしても、
「マインドコントロール下でしたことだから、あなたが『自分の意志』と思っているものは、実は錯覚なんです。あなたは『自分の意志で献金した』と思わされているんです」
というのが長妻氏の考えである。
これほど信者を愚弄した発言もない。長妻氏の頭には「信教の自由を尊重しなければ」という意識が、これっぽっちもないことがわかる。
長妻昭氏はじめ、立民や維新の議員たちが、こんなバカげた考えを信じているとは、ただただ呆れるばかりだ。
繰り返すが、長妻氏らはこうした主張をする根拠、実証的で科学的な根拠を示す責任がある。
まず長妻氏らには、「統一教会の信者、献金した者や物品購入者が、マインドコントロールされていること」を立証するデータを出してもらいたい。
これほど自信満々で公の場で発言するのだから、当然、ちゃんとしたデータをお持ちのはずだ。
次に、
マインドコントロール下に置かれた信者たちが進んで、喜んで献金していても、実際には、当人の自由意志は奪われ、自己決定権も失われていること。
この点についても、科学的に説得力のある根拠を提示すべきだ。
ちなみに、「元信者たちが言っている」というのは、根拠にならない。反統一教会バイアスがかかった証言だけをいくら集めて、客観的なデータとはなりえない。
「自分はマインドコントロールされていたんだ」と思い込みたい人たちの証言に客観性がないことは明らかだ。
マインドコントロール理論に批判的な宗教社会学者の渡邊太氏(現・鳥取短期大学教授)は、西田公昭氏の「カルト団体の元メンバー272人に対する調査」を分析して、次のように述べている(『新世紀の宗教』創元社の第7章「洗脳、マインド・コントロールの神話」)
「入信過程で心理学的技術の要素が見出せるということは、西田の調査データの分析から得られる知見であるが、その心理学的技術によって被勧誘者が自律性を奪われたことは、検証されていないのである。
人の心に影響を与える何らかの心理的技術が使われているというだけでは、マインドコントロールを立証したことにはならない。
それによって、その人が「自律性を奪われた」ことを示さなければならないが、西田氏の研究にはその検証が欠けているというのである。
こんな疑似科学を、世論の力を背景に政府・与党にゴリ押ししようとする長妻氏は、ポピュリストの典型と言うべきだろう。