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旧統一教会と赤報隊事件が無関係な証拠~『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社)が拡散するデマ/追記あり

『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社)の出版差し止めならず

話題の新刊『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社)はよく売れているようだ。これを書いている今、アマゾンの該当ページを見たら売れ筋ランキングは総合64位だった。

旧統一教会(家庭連合)は光文社に出版差し止めを要求したが、同社はこれを拒否。本は8月20日に発売されている。

www.47news.jp

旧統一教会は「(出版差し止めの)仮処分申請も検討する」としていたが、申請はなされたのだろうか?

申請があったかどうか自分には分からないが、現に本は売られているから教団側のもくろみは外れたようだ。

ただ、8月21日付けの広報には「法的手続きも検討しています」とあり、今後何らかのアクションを起こすかもしれない。

教団側の反論は2つ公開されている。

どちらも長文で読み通すのは至難の業だ。

「ろくでもない人物」を広報部長にした教団の任命責任は?

読んでいるうちに疲れてくるし、元広報部長・大江益夫氏への人格攻撃とも取れる記述が目について気分が悪くなる。

これを書いた人は、上記書籍の反駁にのめり込むあまり、読む人がどんな印象を受けるかにあまり関心がないようだ。

前に旧統一教会は広報のやり方がヘタクソだと書いたが、この反論文も世論を味方につけようという気持ちが感じられない。

普通、そういう気持ちがあったら人格攻撃めいた記述は控えるものだが、、、

反論文は「教団の戒律(禁酒・禁煙)をろくに守らなかった大江氏」とか「大江氏以外に、酒を飲み歩いた広報担当者はいない」などと見出しで強調して、読み手を不快にさせる。

これを読んだら大抵の人はこう思うのではないか。

「そんなろくでもない人物を教団の顔とも言うべき広報部長の任に就け、7年間も仕事をさせたのは当の統一教会じゃないか。教団に任命責任はないのか?」

と。

いくら教団を批判(誹謗中傷?)する本を出したからといって、自らの任命責任を棚に上げて元幹部を個人攻撃するのはいかがなものか、ということだ。

虚偽記述を指摘し、一つずつ丁寧に反駁するなりファクトチェックするなりすれば、それで十分だと思う。

「広報部長でありながら禁を破って酒を飲み、タバコを吸っていた。とんでもない男だ」なんていう話は、一般読者にとってはどうでもいいことである。

朝日新聞阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)の犯人を旧統一教会関係者と匂わせる卑劣な本

さて、反論文によると、上記書籍は、1987年に起きた朝日新聞阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)の犯人を旧統一教会の関係者だと匂わせているという。

朝日新聞阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)は、NHKによると次のような事件だ。

1987年5月3日の夜、西宮市の朝日新聞阪神支局に散弾銃を持った男が押し入って発砲し、当時29歳だった小尻知博記者が殺害され、別の記者1人も大けがをしました。

事件のあと、「赤報隊」を名乗る犯行声明文が報道機関に送られ、朝日新聞を狙った犯行が繰り返されましたが、いずれも未解決のまま時効となっています。

事件は迷宮入りし、犯人が旧統一教会関係者だという証拠は何もない。

にもかかわらず、「犯人=旧統一教会関係者説」を匂わす主張(匂わすだけで決して断定はしない)を続けてきたのが、著者の樋田毅氏である。

代表作は『記者襲撃~赤報隊事件30年目の真実』(2018年)。

『記者襲撃』は岩波書店から出たこともあり、非常に大きな影響力を持った。どのくらいの影響力かというと、著名宗教学者で東大名誉教授の島薗進氏に「犯人=旧統一教会関係者説」を信じ込ませることに成功したほどの影響力である。

島薗進氏は「情況」2023年冬号でこう書いている。

批判に対して徹底的に反撃するということが行われました。脅すということです。無言電話等ですね。で、ここから述べていく副島嘉和事件、これがかなり重要です。批判者が殺されそうになるのです。1984年のことですが、この場合は内部からの告発者(注・副島嘉和氏のこと)です。

それから1987年に朝日新聞の記者が殺された事件を含む一群の赤報隊事件は、統一教会がやったかどうかわからないけれども、それを疑う人がかなりいるということです。もと朝日新聞記者の樋田毅さんの『記者襲撃』(岩波書店、2018年)という書物が長期にわたる調査に基づいて詳しく論述しています。(p.61)

樋田さんの『記者襲撃』という本は、統一教会メンバーが赤報隊事件の犯人だということはおくびにも出さない。決してそういうことを肯定してはいない。わからないのはわからないのだけれども、そういう可能性が高いなあと思わせるような叙述になっております。(p.65)

こんな調子で、島薗進氏は樋田氏の著作を「(統一教会メンバーが赤報隊事件の犯人だという)可能性が高いなあと思わせるような叙述」だと肯定的に述べ、高く評価する。

島薗氏は断定はしていないが、内心では統一教会メンバーが犯人だと信じているようだ。

余談だが、彼は内部告発者の副島嘉和氏も統一教会メンバーが襲撃したと思っているらしく、そのことは「批判に対して徹底的に反撃するということが行われました。脅すということです」と書いたすぐ後に、同じ文脈で副島嘉和事件に言及していることで分かる。

この副島事件も迷宮入りし、犯人は不明だというのに。

東大名誉教授・島薗進氏のレベルの低さには呆れるしかない。

元朝日新聞社常務・東京本社代表が旧統一教会の「機関紙」、世界日報を高く評価した事実は何を意味するか?

さて、旧統一教会広報局が発表した教理研究院の反論文を読んで、以下の記述には十分な説得力があると感じた。

今から21年前の2003年に「完全時効」となってしまった事件について、(中略)確たる証拠もないままに、統一教会の関係者であるかのように述べたり、逆に統一教会関係者ではないかもしれないと述べたりして、単なる〝憶測〟を繰り返すのは、著者である樋田氏の〝犯人は統一教会関係者〟との確信に近い思い込みに対する忖度と、教会全体を貶めたいとする大江氏の悪意による印象操作にほかなりません。

自分に言わせれば、朝日新聞阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)の犯人が統一教会の関係者ということはありえない。

なぜかと言えば、当事者である朝日新聞社の大幹部が事件後の2000年代に、あろうことか旧統一教会の関連団体で反対派が「統一教会の機関紙」と呼ぶ世界日報を、高く評価していたからだ。

朝日新聞記者が旧統一教会メンバーによって殺害されたのが事実だとしたら、朝日新聞の元経営大幹部が同教会の「機関紙」と目される新聞を高く評価したりするだろうか? そんなことは口が裂けても言わないに違いない。

ここで言う朝日新聞の元経営大幹部とは、2014年に亡くなった元朝日新聞社政治部長・西部本社編集局長・常務・東京本社代表の青山昌史(まさし)氏である。

www.nikkan.co.jp

青山昌史氏は、1989年に朝日新聞カメラマンがサンゴ落書き捏造事件を起こした際、広報担当として対応に当たったことで知られる。

ja.wikipedia.org

その青山氏は朝日新聞社常務・東京本社代表を退任後の2003年、驚くべきことに「世界日報創刊1万号記念シンポジウム」に登壇し、次のように語った。

「以前、世界日報は朝日新聞について連載し、それを単行本にした。その時の広報担当が私であり、長時間お相手をした。反論もしたが、その批判はなかなか痛いところを突いていた」

www.chojin.com

既に霊感商法が社会問題化し、いわゆる青春を返せ裁判が各地で起こされていた。なのに、朝日の元経営大幹部が世界日報の主催するシンポジウムに出席し、スピーチまでしたというのだから驚きだ。

さらに驚くのは、この青山氏、後に世界日報で「青山昌史の目」と題してコラムを連載している。

  • 青山昌史の目(世界日報のオピニオンウェブ、ビューポイントより)

今風の表現を使えば、彼は旧統一教会と「ズブズブ」だったわけだ。

しかし、考えてみれば不思議な話である。

朝日新聞阪神支局を襲ったのが本当に旧統一教会メンバーだったら、同社の政治部長や東京本社代表まで務めた人物が、殺害犯が所属する宗教団体の「機関紙」(と揶揄される新聞)の1万号を祝うイベントに登壇したりするだろうか?

まずしないだろう。

まして旧統一教会の「機関紙」に連載コラムを持つなどありえない話だ。

文科省が旧統一教会の解散命令の請求を決めたとき、副島嘉和事件や朝日襲撃事件のようなことが起こり得ると警戒した文化庁は、庁舎の門を閉ざし、事務方トップの官僚には警護を付けた。

bunshun.jp

両事件の犯人が旧統一教会メンバーだと信じる立場からすれば、危機管理上は当然の対応だし、再び襲われるかもしれないのに同教団や関連団体のイベントに出席するなど考えられない。

関連団体のシンポなんかに顔を出して、会場にいる跳ね上がり者に命を狙われたらどうしようと誰でも心配するはずだ。

しかし、朝日新聞社の元経営大幹部はシンポに出席し、スピーチし、「機関紙」を褒めることさえしたのである。

それは朝日襲撃事件の犯人が旧統一教会メンバーであるとは、襲われた側の朝日新聞社自身、全く考えていなかったことの証拠である。

9月2日追記

樋田毅氏は元朝日新聞記者だが、『記者襲撃』(岩波書店)と『最後の社主』(講談社)刊行後、朝日新聞社から厳重抗議を受けている。

そこに次の記述がある。

樋田氏は弊社との間の守秘義務を破り、職業倫理を侵し、弊社に一切の確認取材もないまま、極めて不正確な形で、虚実ない交ぜに無断で本件書籍(『最後の社主』)を公表しました。事実の誤りや臆測、偏見で書かれている不適切な記述が少なくなく、、、

樋田氏は以前にも著書『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)において、弊社の記者として知り得た未公表の取材情報を、弊社や取材班の同意も許諾もないまま無断で刊行し、弊社は樋田氏に対し、厳重に抗議しました。

朝日新聞阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)について、樋田氏は朝日新聞として公表を控えた情報を使って本を書いたことが分かる。

朝日新聞が公表しなかったのは、信憑性が薄いと判断したからだろう。そういう情報を元に書かれた『記者襲撃』が旧統一教会メンバー犯人説を匂わすものとなったのは、樋田氏の主観(思い込み)が強く働いたからだと見てよい。

朝日新聞社広報部の抗議文を読むと、『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』はウソだらけという教団側の批判も、「その通りなんだろうな」と思えてくる。